どうか君よ※雰囲気で読んで欲しい
白いローブを羽織り口元だけを見せている男は、目の前に立っている黒髪の少年を見てふっと微笑みました。
〝君はこのあと生まれ変わるから、この機会に特別な人間にしてあげる〟と言ってあらゆることを提案してきた男に対し、いらないと突っぱねたからです。
一人で生きていかないように、どこか欠けていてもそれを補って誰かと支え合っていけるように。だから、〝特別〟はいらないと言った少年のまっすぐな目。琥珀色のそれ。
変わらないな、と男は思いました。昔から優しい子で、自分より誰かを愛せる子でした。この少年も〝そう〟であると、男は知っています。
提案したあれこれを全部拒否されたのは少し残念でしたが、普通の人間になった少年とはそろそろお別れの時間です。最後に転生の魔法をかけて、少年の寝癖がついた頭を撫でました。男が知っている一番好きな撫で方を真似たのです。
きょとりとした琥珀色が、不思議そうな顔で見上げて言いました。
『あの、』
『なに?』
『……どっかで会ったことありますか?』
控えめな声でした。間違っていたら失礼だと考えたのでしょう。
男は驚いたように息を呑んだあと、ローブの下で目を閉じました。その気遣いに〝彼〟の面影がまざまざと瞼の裏によみがえりました。脳を灼くような眩しいほどの記憶。男の中で確かに一番大切だった記憶。熱いものが目の奥から込み上げてくるのを感じながら、落ち着かせるように息を吐きます。
そして、少しだけ口角を上げて微笑みました。
「──────」
哀しみを口の端に漂わせた男の言葉は、しかし、少年には届かなかったのです。
ゆっくり瞼を上げると、目の前に心配そうな顔をした研磨がいた。そっと伸ばされた指の腹が黒尾の目尻を撫でる。
「なんで泣いてるの。こわい夢でも見た?」
「え、あ〜……いや、こわくはなかった」
自分が泣いていたことに気付いた黒尾が、雑に服の袖で涙を拭う。同じベッドで寝ていた二人は、内緒話をするように距離を詰めた。
「こわいとかじゃなくて、なんか、懐かしかった」
「ふぅん」
夢を見ていたことは間違いない。けれど、鮮明には思い出せなくて、ただ、優しくて懐かしい夢だったのは覚えてる。
どこか遠い目をして話す黒尾に相槌を打った研磨も、今朝見た夢のことを話し出した。
「おれも、変な夢見た。黒髪の男の子と話してる夢」
「俺は白いローブを着た男と話す夢だった」
「……今思えば、その子クロに似てたかも」
「……男の声は研磨に似てた、かも」
「…………関係ありそうでなさそうな」
「…………よくわかんねえな」
顔を合わせて考え込むが、いかんせん覚えていることが少な過ぎる。ん〜と仲良く唸っていると、お腹の虫までも仲良く鳴いた。思わず二人揃って笑ってしまう。
「ふは、先に朝飯食うか。何食いたい?」
「ホットケーキ」
「りょーかい。先にその寝癖どうにかしてこい」
「クロに言われたくないんだけど」
「今日はいつもより控えめで〜す」
軽口を叩いてベッドから出た。一緒に住み始めた木造平屋の一軒家は、廊下へ続く扉の全部がギィッと古めかしい音を立てるが、研磨は案外その音を気に入っている。
「あ、そうだ」
洗面所へ向かう研磨に、黒尾が何かを思い出したように足を止めると、居間から顔を覗かせニッと笑いかけた。
「おはよ。研磨」
「……おはよう。クロ」
少年が消えたあと、男は頭に被っていたローブを取って、もう一度呟きました。
『全てを覚えてなくていい。……でも、お願いだから、〝今度こそ〟隣で生きて欲しいんだよ、──クロ』
白いローブとは不釣り合いな黒と金の髪色をした男は、杖を強く握って目を閉じながら、ただそれだけを願っていたのでした。
作業用BGM
RADWIMPS【オーダーメイド】
設定
同じ村で育った二人。10歳の頃に🪄適正テストで黒魔法の素質かあると🐈⬛が判断される。村に住んでいる人々はみんな白魔法の適正で、けれど🐈⬛家族はみんなに慕われていたのでこのまま一緒に住もうと提案してくれた。だが15歳の頃に領主(白魔法信者)が変わったことにより村を追放される🐈⬛家族。🐈は必死に説得したが村の人達を巻き込みたくない🐈⬛は別れを告げる。
そのあとに居場所を求めて東へ向かった🐈⬛家族は、途中で魔族に襲われ🐈⬛以外死んでしまう。そこで助けてくれたのが大王🍃川さんで、最初は馴れ合うことに抵抗感があった🐈⬛も次第に🍃川さんに心を開いて行くようになる。
そして最終決戦で🐈⬛は大切な幼なじみである🐈と敵対した。どうしてと珍しく大声を出す🐈に🍃川さんを見捨てられないんだと🐈⬛は言う。🪄の撃ち合いにより負傷して瀕死な🐈⬛(「ごめんな🐈」と呟く)を抱きしめながら「今度はずっと一緒に生きよう」と誓って🐈⬛の魂に最後の魔法を掛けた、みたいな(長い)