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    nekotakkru

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    #ゾロサン
    zosan
    #ZS

    まずは腹ごしらえから鉛のように重い瞼をこじ開けると、刺すような光の中、薄ぼんやりと石造りの天井が見えた。普段とは違う木製の天井でないことに違和感を覚える。走馬灯のように古い記憶が順繰りに蘇ってきて一番近い出来事に辿り着きそうな時、目の端に金糸が揺れた。
    クラゲか?と、できる限り眉間に力を入れて見遣ればくるりとクラゲがこちらを向いた。

    「よお。お目覚めかい?クソ死に損ない」

    煙草をふかせながらクラゲが尋ねる。いや、クラゲじゃなくてカッパだな、エロガッパ。と思い直してゾロは眉間の力を緩めた。言い返してやろうと口を開くがうまく声が出てこない。驚く程に体に力が入らないのだ。
    ゾロのそんな状態を知ってか知らずか、クラゲ、元いサンジがチョッパーを呼んだ。すぐ様大きな角と丸い瞳が嬉しそうに覗き込んでくる。うっすらと涙を浮かべつつも手早く触診をするあたり、さすがは優秀な船医だと感心する。鼻に刺してある割り箸を除いては。よくよく耳を澄ませれば、賑やかな喧騒がぼんやりと聞こえてきた。いつも通りであれば、戦いのあとの宴をルフィが開いているのだろうと予想をつける。全員無事なんだと察してゾロはゆっくり息を吐いた。

    「気分はどうだ?どこか痛むところはあるか?何か欲しいものとかないか?」

    矢継ぎ早にチョッパーが尋ねる。心配から声をかけてくれるのはわかるが、視線がチラチラと別の方向を向いている。医者としての本分と宴を楽しみたい好奇心が綯い交ぜになっているのだろう。特に今は何も無いと伝えようとするが、やはり声が出てこず、加えて体も動かせないため身振りで知らせることも出来なかった。

    「起きたばっかりでまだ意識がはっきりしてねぇのかもな。それにこいつは普段から寝てばっかりなんだ、少しぐらいほっといたって死にやしねぇよ。気にせずあっちに戻っていいぞチョッパー」

    煙を吐き出しながらサンジが答える。そうなのか、と伺うチョッパーの視線にゾロができる限り頷いてみせる。ほっと息をついて安心したのか、何かあれば声かけろよ!と言葉を残し、一目散に走り去っていった。
    チョッパーを見送ったあとに視線を戻せば、相変わらずサンジが煙を燻らせていた。ふてぶてしくもゾロに寄りかかり、煙草の火を明滅させているその横顔は金髪がかかっていてこちらからは見えない。重い、どけ。と、訴えてはみるが到底何も出来ないのでただその重さを受け入れた。

    「お前、ちゃんと生きてんだな」

    ポツリとサンジが呟く。
    靄がかかったような頭や、霞む視界、麻酔のせいかはたまた感覚が麻痺しているからなのか何も感じない体ではあるが、確かに生きている。

    生きて、いる。

    死ぬ覚悟はもちろんあった。惜しむこともなく身を差し出した。だが改めて、生きているのだと思うと、自身の悪運の強さに笑いがこみ上げてくる。しかし、それと同時に浮き彫りになったのは、まだまだ未熟な己の腕と甘さだった。文字通り身を挺することでしか打開策を見いだせなかった不甲斐なさに、怪我とはまた違う形で腹の奥が痛む。
    上がる口角を噛み殺し、動かない四肢を恥じるとゾロは再び強くなることを決意した。

    見りゃわかるだろう、と視線で返すが相変わらずサンジはこちらを見ない。騒がしい方へと頭を向けながら、長く長く煙が吐き出された。

    「前に言ったよな。お前らは真っ先に死ぬタイプのばかだって」
    「……」
    「お前はその最たる例だな」

    吐き捨てるように言葉を投げられてゾロの額に青筋が浮かぶ。馬鹿と罵られることにも我慢ならないが、正面を向かずに文句を言われるのも腹立たしい。せめてこちらに向かせようと動かない体に力を込めていたら、ぐるりとサンジが振り返った。それと同時に脇腹に手を置かれ、金糸の髪がゾロの顔に覆いかぶさる。体を支える手は先程まで吸っていた煙草を指が白くなるまで押し潰し、見据えた瞳は暗い海のように沈み僅かに波が立って見えた。一瞬、心臓が強く脈打つ。

    「だけどな、死んでもらっちゃ困るんだよ。……てめぇには、でかい借りができたからな」

    置かれた手に力が篭もりずきりと痛みが体を走る。思わず呻き声を上げそうになるが、それ以上に、目の前の人物には苦悩の表情が色濃く出ていた。噛み締められた薄い下唇も、寄せられた眉根も、何かを訴えるような視線も、まるで見た事がない。反射的に、引き寄せたい衝動に駆られるも動かない腕はただ苛立ちを募らせる。せめて何か、悪態でも挑発でも何でもいいと言葉を出すために息を吸って口を開く。

    ぐうぅぅぅぅ、と。

    間抜けな音が腹から鳴った。お互いにキョトンと視線を合わせ、数秒間硬直する。先に吹きだしたのはサンジだった。ぶはっ、と眉を下げて笑いだし次いでゾロが気まずそうに口を引き結ぶ。肩に顔をうずめながら笑う相手に今度は殴りたい衝動に駆られるが、指は辛うじて拳を作るだけだった。
    ひとしきり笑ったあとに目元の涙を拭いながらサンジが起き上がる。その表情はいつもの憎たらしい料理人の顔だった。

    「腹をすかしてる相手には返せるものも返せねぇ。その為にも、まずはメシだな。そんで、とっとと体治しやがれ。すぐにコテンパンにしてやるからよ」

    取り出した煙草に火をつけて立ち上がりひらりと手を降る。その隙をついて力を振り絞り、今度こそはと手首を掴んだ。少し驚いたサンジの表情がゾロを見る。にやりと口角を上げて、できる限り皮肉に笑ってみせた。

    「やれるもんなら……やってみろ、バカ眉毛」
    「……は、上等だよ。くそマリモ」

    蔑ろに手を振り払われ、今度こそ自分の持ち場へと戻っていくサンジの背を見送る。投げ出された手は役目を終えたようにまた動かなくなった。手の平に残る相手の熱がじわりじわりと燻る。去り際の残り香に煙草と香辛料の匂いが混ざる。もう一度ぐう、と腹が鳴ると、まずは握り飯がいいとゾロは再び目を閉じた。
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