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    nekotakkru

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    #リョ三
    lyoto-3
    #SD腐

    始まりを告げるカウントダウン「『沈黙の7秒』って知ってる?」

    読んでいた雑誌から顔を上げてアンナが宮城に訊ねた。問われた宮城はアイスを探す手を一瞬止め、僅かに片眉を上げて困惑を隠した。冷凍庫へと顔を向け、あー、と声を零しながらお目当てのアイスキャンディーを手に取る。もう一度アンナの方へ視線を向ければ、宮城と同じ少し重い瞼の瞳がこちらを見ていた。これは答えなければいつまでも訴えかけられるやつだ。面倒くさそうに個包装の袋を開け、宮城はシラネ、と素っ気なく返しアイスを口へと運ぶ。舌先で撫でれば冷たさの後に優しいミルクの味が広がって、歯を立てればさくりと雪のような食感を感じた。

    「なんかね、相手のことを見つめて7秒間ずっと目が逸らされなかったら、その相手は自分に好意を抱いているんだって」

    端から宮城の返答は求めていなかったのだろう、ここに書いてるの、と雑誌を指さしながらアンナが答える。それを宮城もわかっていたため、あっそ、と気のない返事を返した。風呂上がりで濡れた髪を乱暴に拭きながら、一口、二口とアイスを食べ進める。火照った体を充分に冷やして、髪を乾かすために再び熱気の残る洗面所へ向かわなければならない。

    「でも彼氏はさぁ、目を合わせても3秒ぐらいで逸らしちゃうの。嫌われてんのかなぁ」

    肘をつき、ため息をつくアンナの言葉に宮城は最後の一口を唇から零した。アイスが無惨にも床で弾け、せっかく綺麗にした足を汚すがそれどころでは無い。

    「彼…氏…?」
    「うん、彼氏。あれ、リョーちゃんに言ってなかったっけ?」

    キョトンとした顔が悪意なく宮城を傷つける。それに屈することなくなんとか床を片付けゴミを捨てると、宮城はよろよろと洗面所へ戻った。
    その日の夜は妹に負けた悔しさで少し泣いた。






    ◇◇◇◇◇

    翌朝はアンナの衝撃的な告白によりあまり眠れず、大きなあくびばかりを繰り返していた。改修工事だかなんだかにより朝練のなかった今朝の通学路はいつもより賑やかで、他の生徒たちの声が子守唄のように聞こえる。加えて秋を目前にした空はどこまでも爽やかで吹く風が心地よい。昨夜からの心の靄を晴らす目的も含め、一時間目は屋上に逃げようかと考えてた矢先、背中を力強く叩かれ張りのいい音が鳴った。思わず息が詰まり、話せない代わりに眉間に力を込めて振り返る。しかし目の前の相手に、宮城はころりと表情を変えた。

    「アヤちゃんっ」
    「おはよ、リョータ」

    髪を払いながらにこりと笑う彩子は既に大人の女性だ。その魅力にあてられるのは惚れている宮城だけではないだろう。でれでれと鼻の下を伸ばしながら彩子と連れ立って歩く宮城に、普段の鬼キャプテンの畏怖は感じられない。快活に話す彩子にうんうんと相槌を打ちながら、宮城はふと、アンナの言葉を思い出していた。

    『相手のことを見つめて7秒間ずっと目が逸らされなかったら、その相手は自分に好意を抱いているんだって』

    ごくりと唾を飲んでじっと彩子を見つめる。涼しくなってきたとはいえ、天気のいい日はまだまだ汗をかくこの時期に暑さとは違う汗が宮城の背に流れた。
    たかが雑誌の、それもなんの根拠があるのか知れない記事だ。馬鹿馬鹿しいと思いつつも、つい万が一を期待してしまう。

    「それでその時───何?どうしたの?」

    宮城の視線に気付いた彩子がはた、と立ち止まった。長い睫毛に縁取られた大きな目が、不思議そうに宮城を見つめる。まるで吸い込まれそうだ。そんな歯の浮くようなキザな台詞は言えないが、宮城は熱の篭った視線を向ける。どきどきと上がる心拍数に引っ張られないよう、努めて冷静にカウントを開始した。リョータ、と名を呼び、少しだけ小首を傾げ、相手の出方を待つ彩子を心底可愛いと思いながら、カウントは6にさしかかろうとしたその瞬間。

    「あ、晴子ちゃーん!」

    視線は呆気なくそらされて、彩子はそのまま後輩である赤木晴子の元へと走って行ってしまった。がくぅ、と肩を落としながら宮城はその背中を見送る。そんな素っ気ないところも好きだ、と心中で噛み締めながら宮城は曇る心を再び抱え、学校へと歩き出した。



    ーーーーー


    一度気になりだしてしまったら止まないもので、その日は目が合う相手に片っ端からカウントを開始していた。
    共に日直当番だと言ってきた女子は3秒。体育でペアになった男子は2秒。授業中、集中しろと声をかけてきた教師は睨みも含めて5秒と様々で、より雑誌の信憑性を薄くしていく。反面、親友だと思っていた安田とは6秒までしかもたなかった時は少し己の行動を省みた。

    「っした」

    扉に手をかけながら、流川が少しだけ頭を下げて出ていく。その背中にまた明日な、と声をかけて宮城はまた机へと目を向けた。
    目の前には広げた大学ノート。表紙にはマジックで『湘北高校バスケット部 部誌』と綺麗とは言えない字で書いてある。宮城がキャプテンに就任してから新たにはじまった仕事だった。

    三年生が引退してから暫く、練習内容が一段と厳しくなったことに対して残留している三井とは言い合う日々が増えた。はじめこそ意見のぶつかり合いということで済まされたが、徐々にエスカレートしてきては他部員を怖がらせ、空気を悪くしていた。その事態に先に気付いたのは三井で、このままではマズイと行動を起こしたのも三井だった。ある日、ノートを差し出しながら宮城にお前の意見を書けという。厳しい裏に考えや理由があることをみんなに伝えろというのが三井の提案だった。三井の言うことも一理あり、ここまでしてもらったのであれば無碍にもできず、宮城は渋々そのノートを受け取った。以降、練習終わりにこうして日々の記録をつけるようになった。
    元々が机に向き合うのを嫌う性分なのもあってなかなか進まないでいると、再び扉が開いた。しかし現れたのは先程の流川ではなく、汗を拭いながら疲れた顔を見せる三井だった。冬に向けて練習後に個人でシュート練習をすると宣言してから、毎日欠かさず行っているのを宮城は知っている。その為、最後に二人きりになることも珍しくはなかった。

    「おつかれッス」
    「ん、おう」

    短く返して三井はそのままロッカーへ向かう。普段であればくだらない話を大きな声で話すのだが、やはり練習後はそんな元気もないようで口数は少なかった。宮城も気にすることなく机の上の敵を睨む。ロッカーの扉の軋む音、制汗スプレーの爽やかな香り、時折挟まれる三井の深い深呼吸。それらをBGM代わりに宮城は鉛筆を走らせた。
    ようやく集中してきた頃、目の前にどっかりと三井が座った。上目で一瞬見てから紙面に戻し、なんスか、と声をかける。一人残されるより少しほっとしてしまい、自然と上がる口角を見られまいと隠した。

    「お前これ、続けてたんだな」
    「アンタがやれっつったんでしょ」
    「おーおー、先輩サマの言うこと聞いて偉いじゃねぇか」

    わははと豪快に笑いながらぐしゃぐしゃと宮城の髪を混ぜる。ウゼェと手を払い除けるが三井は気にしていない様子だった。そのまま片肘をついて宮城が書く文章を黙って見つめている。たまに手が止まるとぼそりとアドバイスを送っては、やはりじっとその作業を見ていた。ありがたいが居た堪れない。窓の外も随分と暗くなった。申し訳なさとむず痒さにより宮城が帰ることを促すが、三井はさも当然に一緒に帰るんだろ?と聞き返してくる始末だった。
    返す言葉に詰まっていると、期せずして三井と目が合った。反射的に今日一日で癖づいてしまったカウントがゆっくりと開始される。

    「おい、宮城?」

    突然黙り込んだ宮城に三井が眉を寄せた。ひらりと控えめに手を振られるが、それでも構わずひたすらに三井を見つめる。何となく、目を逸らせば負けるような気がして宮城は奥歯を噛みながら目を凝らした。

    「なんだよ、急に黙って」
    (…2…3)
    「オレの顔、何かついてるか?」
    (…4…5)
    「なぁ、おいって」

    訝しげに眉を寄せた三井が宮城の利き腕を掴んだ。反射的に心臓が跳ねる。カウントは6を超えた。練習後に引いたはずの汗がぶり返したように止まらない。それも、背中ばかりを濡らしている。腰を上げた三井の顔が宮城に迫ってきた。くすんだ琥珀のような瞳に自分の顔が映る。

    「みや」
    「っだぁーーーーー!!!!」

    大声を上げて上を向く宮城に三井がびくりと肩を竦めた。その勢いのまま下を向き、深くなる眉間に拳を当てながら、なんでこんな、チクショウ、クソ、と悪態をつく宮城に、三井も流石にムッとして語気が強くなる。

    「さっきからなんだよお前!失礼だろうが!」
    「うるせぇーなんでオレのこと見んだよ三井バカやろぉー」
    「ああ"!?」

    三井の文句が続く前に宮城は大きく息を吐いた。自分と三井、どちらも宥めるように控えめに両手を上げて、落ち着くようポーズをとる。納得せずとも、三井もそれに従った。もう一度深く息を吐いて、あのさ、と宮城は話し始める。三井も不貞腐れながら荒々しく腰掛けた。

    「三井サン、沈黙の7秒って知ってます?」
    「あ?あー、なんか昔聞いたな」
    「昨日、妹にそれ言われて。なんか変に意識しちまってて、今日ずっとカウントしちゃってんスよね」
    「カウントって、7秒?目が合った全員にか?」
    「そう。で、7秒間目が合ったの、アンタだけなんスよ」
    「…え、はぁ!?」
    「もー、何でよりによって三井サン…」
    「そりゃオレのセリフだっつの!それより宮城、お前」
    「なんスか」
    「そんなに目が合わねぇって、よっぽど嫌われてんのか?」

    カーン。脳内でゴングが鳴りお互いが胸ぐらを掴んで立ち上がる。振り上げた拳は、しかし見回りの教師に見つかり互いを傷つけることなく収められた。

















    ─────

    ごろりと布団に横になりながら、宮城は本日の成果を振り返っていた。どんなに探してみても、やはり7秒間、いやそれ以上に視線があったのは三井ただ一人だけだった。雑誌の記事が本当であれば、三井は自分に好意を抱いていることになる。あの三井が。目の上のタンコブでしかない、あの三井が。
    宮城は足元に蹴飛ばしていたタオルケットを頭から引っ被った。腹の奥がぎゅうと締められ、鼓動が小動物の如く早くなる。だが、ちっとも嫌な感じがしないのだ。これもそれもどれも全部、あの雑誌が、話を振ったアンナが、真摯に見つめる三井が悪いのだと全て人のせいにして、宮城は目を瞑った。


















    「なぁ徳男、『沈黙の7秒』て知ってっか?」
    『あー、懐かしいね。昔、集まった中で女たちが話してたっけ?たしか“7秒間ずっと目が逸らされなかったら、その相手は自分とヤリたいと思ってる”とかなんとか』

    迷信だよなぁ、と電話越しで豪快に堀田が笑う。対して三井は何も言えず、難しい顔をしながらただダイヤルボタンの7を凝視していた。そういえば、あいつの番号もこの数字だっけ。うっかり押し込んでしまわないよう、楕円で象られたそれに優しく触れる。

    『それで、それがどうかした?』
    「あー、いやなんつぅかその、オレその数字に好かれてるみてぇでよ」
    『は?』

    なんの事かさっぱり分からない堀田を置いて、三井は目を閉じながら眉根を寄せる。明日からどんな顔して会えばいいんだと忙しなく動く胸元を押さえながら、三井は悩ましげにため息をついた。
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