半日未満の逃避行 遠くの波間には、クラゲの代わりにビニール袋が揺蕩っている。
人間の手で作られ、自然に還らない――可哀想な亡骸だ。
ダイバーのくせに。海に親しい人間くせに。
真っ先に怒りや悲しみを感じないなんてどうかしてるな。
自分に軽く罵ってみたけれど、そのような感情を無理にひねり出して放出する必要もない気がしてきた。
「まったく、実にけしからんッ! 母なる海を、我が友が泳ぐ大切な海を汚すなど決して許されんッ!」
なにせ、隣では鬼の形相で怒ってくれる人がいるからな。
ぼくは水筒の蓋を開け、中に入った氷水で口内を潤し冷やしていた。
ヒートアップする隣の赤鬼くんの横で、平静を保ったぼくがクールダウンをする……というのは奇妙なものだ。
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