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    猫灰猫

    大丈夫だ、ここにはマンサクしかいない。

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    猫灰猫

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    甘いもの好きなのは血筋だとおもう落書き。

    内緒のお菓子「”エルダ”様こっちですよ!」

    絹色のハイラルのマントーを深々と被った少女の手を引いて緋色のマントーの少女が買い物客でざわめく石畳の小道を並んで駆けていく。狭い道幅いっぱいに壁や窓にまで生活の色とりどりな商品がなれべられ店の入り口に立った売り子たちが手に布やら鞄やら野菜や靴まで高々と持ち上げて客寄せをしている。路地の隙間に積み上げられた木箱の上で猫が昼寝しているのを見上げながら”エルダ”はもう一人の少女の側に付いて進んでいく。
    少し前方と後方にやけに体つきの良い町男たちが買い物然として控えているが、少女たちは気にもとめずに街の流行りものに目をときめかせている。

    「ここですここです!騎士殿御用達のお菓子屋さんですよ!」

    賑やかな商店街から少し入った古街地区に今でも並ぶ小さなお菓子屋さん街。古くから甘物道と呼ばれてカフェや茶店が今でも多く並んでいる。石壁に白とピンクの布が交差して掛けられ、窓からは可愛らしい焼き菓子やら切り分けられたフルーツのケーキやらが足つきのガラス皿に乗って所狭しと並べられているのが見える。それを恰幅のいいマダムがひょいひょいと包み紙の上に取り上げていき、器用に折り曲げてピラミッドのように包装する。リボンで底を支えて上に輪っかの持ち手をつけ、ハサミでチョンと切ると愛嬌のある笑顔で気をつけて持って帰るんだよ、と嬉しそうに微笑む子供の客に渡していた。
    少年が走り出ていくのを見送ると、

    「こんにちは、あの、こちらでりんごの焼き菓子が評判だと聞いてきたのですが」
    絹色のマントーの少女が窓越しに女主人に声をかけた。
    「いらっしゃいませ!そんなところからでなく中に入ってご覧くださいな!」
    盛り上がる両頬につられて目を細くするおおらかそうな笑顔とともに店の中に向かって手を広げる。
    緋色のマントーの少女が後ろと中に素早く目を走らせ、どうぞと絹色のマントーの”エルダ”を先に中に通した。
    ”エルダ”が華奢な手で被りを降ろすと綺麗に分けられた金の髪が美しい少女であった。

    「うちのりんごのビスキュイは昔っから評判ですのよ!城下町土産としてよく売れましてね、ほら、ハイラル王もりんごがお好きでしょうー」
    女主人の言葉に一瞬”エルダ”と緋色の少女の肩に力が入る。
    「だからハイラル城下町のりんご菓子といえば旅の方も喜んで買っていかれるんですよ。だから箱にもお城と姫さまの横顔が入ってるんです。王室ご用達ってほどじゃあありませんがね。そうそう、最近は近衛騎士になった方がよく買いに来てくださるんですよ!」

    ”エルダ”がはっと女主人を見上げると同時に緋色の少女もほら、やっぱり!と囁く。
    「マダム、それは稲穂の髪の青年ではありませんか?」

    「あら、お嬢さんも彼の方をご存知で?いつもたくさん買っていただいて!最近なかなか忙しいみたいでね。お父様の時代からご利用いただいてるんでお得意様なんですよ。」

    マントーの少女達はごく普通の年頃の娘のように声をあげ、こく普通の年頃の少女達のように色とりどりのケーキ達をあれこれと目で楽しんで一つずつ好きなケーキを選び、帰りに食べられるようにと先ほどの客のように紙で包んでもらい、リンゴのビスキュイを大箱で2つも抱えて丁寧に女主人に礼を言って店を出た。

    近くのカフェの見渡しの良いテラスの端に座り、紅茶を頼んでそれぞれの包みを目を輝かせて開いて味わった。

    「やっぱり私が目をつけたお店に間違いなかったですね”エルダ”様!」
    「あなたにお願いできてよかったです。お忙しいでしょうに私のわがままに付き添っていただいて…」
    「何をおっしゃいます!ちゃんと”息抜きだって立派なするべきことの一つ”だとおばあさまがよく言っておられました!私も姉様の尻拭いで爆発寸前なんですよ!」
    クスクスと笑い声をたてて少女達は午後の城下町を楽しんだ。


    ***********


    「失礼いたします。」

    姫の私室に通されると知った甘い香りが広がっていた。
    ご無事にお戻りになられて何よりです、と言いかけて本日午後の王の側近との警護会議の間、姫の外出は自分には秘密の行動であったことを思い出し、言葉を呑み込む。
    魔物のいない城下町といえどもイーガ団の潜伏者がいるかもしれない。気がきでない姫の突然の城下町へのお忍び外出に会議を投げ出して付いていこうとするのをインパに素早く止められたのだった。自身が付き添い、”女の子同士で”行きたいのだそうだ。一瞬ゲルドでの女装も頭をかすめたがここはハイラルの城下町。ゲルドの女性達のように筋肉隆々な中ではバレないものの、流石に女装してまで、まして姫と女の子として接することなど到底無理だと諦め…インパを信用することにした。

    「リンク、お菓子はいかがですか?」
    満面の笑顔で差し出された両手の可憐な皿の上にはよく知ったりんごの焼き菓子が並んでいた。
    リンクが自分が外出したとは知らないであろう、突然自分の好きなものが出されてさぞビックリするだろうとワクワクとした瞳でこちがを覗いている。なんて可愛らしいんだろうとよぎる考えを不敬な、とかき消し、少し開いてしまった口を元に戻しながら言葉を選ぶ。

    「これは下町の…リンゴのビスキュイでしょうか。」

    「ビックリなさいましたか?!今日、イン…いえ、本日できたてのものです!ぜひ召し上がってください!」
    あくまでも自分が買いに行ったことは秘密にしておきたいのだろう、下唇を噛んで必死にこちらの様子を観察している。
    手をのばしかけてふと姫に声を掛ける。
    「ゼルダ様はもう召し上がられたのでしょうか?」

    目を丸くして、はっと皿に目を落としたゼルダが少し赤くなる。

    「わたくしったら!貴方に食べて頂こうと思うのに頭がいっぱいで肝心の味の確認を忘れていました。研究者として恥ずかしいですね。」

    隠そうとしても素直すぎる姫様の言葉にリンクは耳の先に熱が上がっていくのを感じる。

    「では、ご一緒にいかかでしょうか?」
    「そうですね、二人でいただきましょう!」

    ゼルダから皿を受け取り、二人で小さなビスキュイをまるで乾杯でもするように小さく掲げてお互いに口に運ぶ。リンクは一口で、ゼルダはサクッと小さく噛み割った。

    「おいしい!これはリンゴの実が入っているんですね!キャネルの香りも少し。城で焼くものとは風味が違いますね。なんだか…懐かしい味がします。」

    「リンゴの皮ごと砕いて干したものが使われるそうです。香りが良いのはそのせいかと。よく父がハテノの家に土産に持って帰ってくれました。」

    皿に並ぶビスキュイの列を愛おしげに見つめながら、珍しく身内の話をするリンクに内緒で好きだと聞いたお菓子を自ら買いに行った甲斐があったと、その珍しく柔らかな表情を見せてくれることにも嬉しくなる。そしてゼルダにも思い起こされる何かがあった。

    「リンクのお父様は近衛騎士でいらしたのですよね。わたくしもよくお父様の側に見かけ……あ!お菓子のおじさま!!!」

    お菓子のおじさまとは?料理長のことかと考えを巡らそうとする目の前で長くたわわな睫毛がせわしなく羽ばたき、新緑の瞳があどけない笑顔を引き連れてリンクを釘ずけにする。

    「わたくしも小さい時によくこのお菓子を貴方のお父様から頂いたんです!修行の合間によく声をかけていただいて。いつもポケットの中にお菓子が入っているんです!それを会うたびにせがんでしまって。内緒だから侍女に隠れてこっそりと食したのを覚えています!」

    我が父の近衛騎士としての思い出を聞くのもこそばゆい思いがあったが、冷たい泉に身を沈め悲壮な瞳ばかり見てきたのに、お菓子一つでこんなにも暖かな色になるのかと、その色を忘れまいと真っ直ぐに見つめ返す。
    その青いわずかな微笑みに頬を赤くしながらゼルダはモジモジと指に残ったビスキュイを見つめて顔を伏せてしまう。

    「わたくしったら自分のことばかり!せっかくリンクの思い出を聞かせてくださったのに。」

    「父の思い出話しが聞けて、大変嬉しく思います。」

    「不思議ですね、わたくし達小さな頃に同じお菓子を食べていたのですね。」

    早くに母を亡くし、封印の力に目覚めなければならなかったゼルダを支えた人々の中に父の姿があったことを誇らしく、なぜか少し羨ましいと思う。
    母が亡くなるまで過ごしたハテノの思い出は父の不在もさほど気にならないほど二人の愛情を受けてきた。お菓子は強く印象に残り、こちらにきてからもよく買いに行く。父がいつも持ち帰る城下町のリンゴ菓子の美味しさにせがんで家の裏にリンゴの木を植えてもらったほどだ。父が自分のそばに居ない時は”オウサマとオヒメサマ”のそばにいることはよく教え込まれていたが、近衛の父がまさか自分に持ってきてくれたようにゼルダにもお菓子をあげていたとは。騎士らしく模範たれ、がもっとうの近衛兵としての父の制服の下でも父は父だったんだなと妙に納得するものがあった。そして今、その高貴な人を守り継ぐことができて嬉しくも思う。

    そばに控えていた侍女が近寄り、ゼルダに耳打ちする。そろそろ王と外務の人間を交えた夕食の時間だ。
    「わかりました。それでは参りましょうか。」

    侍女とリンクに向かって背筋を伸ばし、ハイラルの姫の顔に戻りながらドアの方を見やる。ゼルダは侍女がリンクから皿を受け取って下がった隙を見て、手に残ったお菓子をぽいっと口の中に放り込んだ。

    「内緒ですよ!」

    唇に小さく指を立ててこっそりと目配せするゼルダに、リンクはゆっくりと頷いた。
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