ホワイトデー的な何かエンジンの音に紛れてしまうこともなく、微かなリップ音が人ごとのように耳に入る。
隼人と家を出る時間が合う時は、車に乗せて行ってもらう。
昔は助手席に座りシートベルトを締めるのは楽しみでしかなかったが、今は早く免許を取らなければと焦る気持ちの方が大きい。
取ったところで隼人が大人しく助手席に座ってくれるのか、駐車場代がと言いつつもう一台車を買われてしまうのではと考えぬでもなかったが、さすがにそこまではしないだろうと思いたい。
「着いたぞ」
そんなことを考えている間に、いつも使っている駅の近くの駐車場に入ると車が停まる。ちらりと隣を見ると、隼人はいつも持ち歩いているノートPCで予定を確認しているようだった。
何となく車から降り難くてその横顔を眺めていると、カムイの視線に気付いてしまったのかふと目が合って。小さく笑った顔から目を反らせないでいたら次第にその顔が近付いてきて、冒頭に至る。
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