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    夏川順助

    @Natsukawa_jyun

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    夏川順助

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    天彦が不思議な猫ちゃんたちを拾って別荘で飼い始めた話。ふみやの名前がつけられたふみにゃんです。
    ふみ天概念で人間のふみやもいて、最後に猫ちゃんたちの存在がバレます。
    翻訳終わりましたので更新しました。

    #ふみ天

    猫してしまった/ふみ天天堂天彦は最近、カリスマハウスの住人に隠しごとがありました。それは——今、彼は猫を飼っている。
    それとも一匹ではなく、三匹である。
    ある秋の日、天彦が海辺の別荘に向かう道を歩いていました。秋風が吹き、黄金のようなイチョウの葉が地面いっぱいに広がり、道行く人の視界を暖かくしていた。ふと道端で、かすかな鳴き声が聞こえた。足を止めて耳を澄ますと、しばらくして道端の草むらから茶色の小さな頭がのぞいてきた。
    見た目からおよそ生後一ヵ月か二ヵ月くらいで、飼い猫な訳ないだろう。子猫は天彦の靴先に立ちはだかっていて、185センチの男の革靴に比べて、その体はいっそう弱々しく見えた。もし天彦ではなくもっと悪い人だったら、蹴飛ばされてしまうかもしれないだろうに。生まれて間もない子猫は、世の中の残酷さを知らない。

    こんな小さな命に囚われてしまった天彦は、何かできることはないかと迷ってしまった。母猫から離れた子猫は、自分で生きていくのはほぼ不可能だ。
    ポケットに手を入れて、指から硬い触感が伝わってきた。先日シェアハウスで分けてもらったビーフジャーキーだ。猫を飼った経験がないが、不用意に子猫に固いエサを与えてはいけないぐらいは知っている。さらに指を近づくと、子猫が匂いを嗅いで軽く指を噛まれた。その可愛さで思わず微笑んだ。
    急に子猫が背を向け、草むらの方へ歩き出した。そちらへ歩きながら、天彦の方へふりかえって、ついてきてほしいとでもいうようににゃんと鳴いた。ついていくと、簡易な段ボール箱の中にさび色と白黒の、二匹の子猫がいた。
    「家族もいるんですか……」
    茶色の子猫はつぶやく天彦を見上げ、それに応えるようにもう一度鳴いて、軽く天彦の人差し指を舐めた。関節から生温くてざらざらな感じが伝わってきて、なんだか愛おしく思いながら、今の状況を整理し始めた。
    里親募集となると、恐らく子猫たちはバラバラ離れるだろう。初秋の肌寒い空気の中でお互いくっつている猫ちゃんたちの姿を見て、なんだか切なくなった。
    それは決して優しくも窮屈で、どう向き合っていいかわからないあの「家」を、妙に思い出したわけではない。家族と引き離されていることって、誰しも悲しくなるもんだから。
    こうして可愛い迷惑が更に2つ増えたわけだが。シェアハウスには同居人が多くて、その中に猫アレルギーの方がいるかもしれない。それにやんちゃな子猫が他人の物を壊してしまったら申し訳ないから、結局天彦はシェアハウスから近く、面倒見やすい海沿いの別荘にした。
    こうして、天彦は密かに猫を飼う生活を始めた。好き嫌いなくよく食べるし、あまり病気にならなかった元気な子猫ちゃんたちは、天彦の暮らしをすごく豊かにさせた。
    「『飼い主交流会』……」スマホのTLに何気なく流れてきた情報をつぶやきながらクリックした。同類を探すのは生き物の天性であり、またトラブルや病気など今後の非常事態に備えるべく、天彦は飼い主初心者である自分のために申し込んだ。それに、何か未知のセクシーに出会えるかもしれない。

    かつて商店街に行ったときの出来事を思い出し、天彦は依央利に「普通」の服を選んでもらった。普段はボディーラインを強調するタイトなスタイルに馴染んでいたが、急に突然のカジュアルな服に変わると、どうも慣れない。
    「決していきなり変な話をしないで!そこにいるのは普通の方だけですから!」
    背後から依央利に何度も注意され、なんとか時間通りに玄関を出てきた。しかしいくら準備万端しておいても、いざ集合場所に足を踏み入れると、やはり教養が高いかつ容姿端麗な天彦はどうしても注目されてしまう。長身の男性がボールペンや手帳を持つ真面目な姿も、更にギャップ萌えを増えた。
    ナイトクラブでの経験が豊富な天彦は面倒な客もたくさん相手にしてきたため、一時合コンになりかけた飼い主交流会は、やっと無事行われることができた。

    「ええーー猫ちゃんたち、みんなかわいいですね! お名前は何と言いますか?」
    「ふみやさんです。」
    「へえ、人の名前みたいで面白いですね!こちらは」
    「ふみやさんです。」
    「同じ名前……ですか」
    「そうです。こちらがさび色のふみやさん、こちらが白黒のふみやさん、こちらが茶トラのふみやさん……」
    周りの飼い主さんが妙に沈黙したことに気づき、天彦は慎重に尋ねた。
    「何かまずいことでも…?」
    「いえ、あまりにも珍しくてかわいいですから」
    「そうですか、ありがとうございます……」
    美男子なのに脱線した名づけ方、猫なのに人間のように呼んでいる。ほかの飼い主さんが思わず笑い出すと、天彦もわけのわからずとにかく微笑んだ。三十歳になった男が、褒められた子供みたく心から嬉しそうな笑顔。さまざまな業界や年齢層の人々もその笑顔に癒され、天彦のかわいさと誠実さに同じく優しい笑い声で返した。
    もちろん天彦は言わないし、彼らは知るすべもなかった。確かにそれは人の名前で、しかも天彦と同じシェアハウスに住んでいる若い住人であること。
    そして、二人は付き合っていることも。
    自分の水を飲まずに、あえて天彦のコップで水を飲んでから、天彦の顔を舐めてごまかそうとする。
    また、キャットフードの盗み食いもよくあることで、そこまでは普通なのかもしれないが、すでに開封した袋ではなく、奥に積まれた袋を狙った。そしてまた元の場所に戻し、別の袋で隠した——気づいた時にはほとんど空になっていた。完全犯罪を犯した策略家の猫ちゃんたちであった。
    だから勝手に「ふみやさん」と呼んでしまっただろう。 同じアメジストの目をしているだけでなく、その若者みたいにだらだらで、ミステリアスで、ちょっとずる賢いものだ。

    ところで話が続くうちに、天彦も少し変わったところを気づいた。
    「え!?みなさんちの子はこれくらいしか食べないんですか?!」
    「というか、ふみやさんたちはどれくらい食べるんでしょうか」
    猫缶にキャットフード、猫用スナック、栄養剤、お洋服、猫玩具、猫ひっかき板……そして彼らはエサの種類にもこだわらないので、面白いエサを見つけるたび、ついつい試しに買ってみたくなった。 時に、天彦が自ら飯を作ってあげることも。
    リストを見ながら思わず焦った。別にお金にケチつけているわけではない。 (普通の家も、こんなエサの量を負担できるわけはないが。)
    ただ、異常な食欲は病気の前兆かもしれないし、もしくはーー太りすぎで健康上のリスクが高くなりうる。とても心配だ。
    交流会から戻ると、天彦はすぐふみやさんたちを病院に連れて行き、検診を受けた。
    「食べすぎの原因は不明ですが、みんなとても健康ですよ。心配でしたら、餌の量を減らしてみてもいいですね。人に懐っこくてかわいいですし…せっかくですから、ついでに予防接種も受けましょう。」
    医師は天彦と看護士さんにちゅーるを渡し、猫にえさをやりながら接種しようと指示した。 しかし、ちゅーるに夢中で、ふみやさんたちは接種を受けたことすら気づかなかった。
    なんて情けない…と天彦はちゅーるをやりながら思わず顔を覆った。真面目でやさしい医師も思わず笑い声を出してしまい、その笑顔を見て、ふと久しぶりに会った兄のことを思い出した。

    「ですから、これからは先生の指示に従って、食事を控えめにいきましょう。」
    家に帰ると、 天彦は手元のペット手帳に向かって真面目に宣言した。
    すると、いつも彼の諭しを無視するふみやさんたちが、急に話がわかったように騒ぎ始め、ニャーニャーと激しく抗議した。
    「声が低い?!」
    さびちゃんは天彦の肩まで踏みつけ、茶トラちゃんは 「減るくらいなら俺も追い出せ」とでも言うようにでキャットフードの袋の上にバタンと倒れこんだ。 そして白黒ちゃんは、冷蔵庫の上にしゃがみこんで静かに見守っていた。 他の2匹を捨てればいいんじゃない?と、小さな頭の中で考えていた。
    これが序章に過ぎないことを、天彦は知らなかった。 それ以来猫はエサを奪い合ったり、守りぬいたり、やがてお互いを暗殺しようとすることを。

    天彦がそれに気づいたのは、さびのふみやさんがどこからかネズミ捕り器やナイフやおもちゃのピストルをくわえてきたからだ。いつも気ままにぶらぶらしているが、いったいどこで人間社会のような陰険な手口を覚えてきたか。
    なぜかよく暗殺目標として狙われている白黒のふみやさんだが、いつも天彦は偶然帰ってきてちょうど現場にぶつかり、現行犯猫を止めて、被害猫も無事になる。そして白黒のふみやさんは天彦の後ろに隠れ、無邪気な顔で何度か鳴いた。 天彦も他の2匹の首筋をつかんで、動じない彼らを叱らなければならなかった。
    留守の間に白黒のふみやさんも襲われたのではないかと思ったが、毎回無傷で夕食を食べにきた。少なくとも天彦が見た限りでは、まったく何もなかった。
    暗殺計画が失敗した後、さびちゃんはある日また逃げ出し、今度は一日も帰ってこなかった。心配になった天彦は猫探しのプリントを用意し始めると、翌日の夕方、幽霊のように何かをくわえて窓から入ってきた。 そしてテーブルの上に飛び乗り、それを天彦の前に置いた。なんと、革の財布だった。
    開けてみると、身分証、キャッシュカード、運転免許証、それに一万円札が何枚も入っていました。
    「一体どこから拾ったんですか……!?」
    いや、もしかして「奪った」可能性も…!?
    天彦は金がないだろ?手伝ってあげる。まっすぐに彼を見ている猫は、なんで慌てているかを何も理解していないようだ。
    落とし主はよほど困っただろうと、天彦はすぐ交番に届けに行った。あまりにも突然のことで、拾った場所を聞かれたときは焦って適当に言ってしまった。、少し疑った警察官の視線に背を向けて、天彦は急いでその場を立ち去った。警察に取り調べられそうになるなんて初めてだ。

    茶トラのふみやさんはソフトな戦術を使う。夕方天彦が餌をやると、食べながら涙を流していた。(早食いで涙管を圧迫しているだけだけど。)食後も飽き足らず、テーブルの上に横たわって、買い物リストを書いている天彦のボールペンをスリスリと邪魔していた:腹減った、天彦これこれとこれ買ってきてよ。
    そんな内輪もめが一週間続き、ついに猫たちは耐えられなくなりました。終わることなく内紛をやめ、進路を変更し、協力し合うことにした。 3匹そろって布団にもぐりこみ、息も絶え絶えに天彦に向かって鳴き、さらにはローブの中に入り込み、胸筋をふみふみし始めた。 ご飯を追加するまで寝かせないという強い意志でニャーニャー鳴かれると、天彦はかなり動揺した。寝返りを打って立ち上がり、3匹の猫を落ち着かせるために缶詰を持ってきた。
    (明日はご飯を少し増やしましょう…)
    が、おかげで新たなインスピレーションが湧いてきた。
    人と動物の触れ合い。男のローブの襟から覗くふわふわな動物に、見る者の心がとろけて、柔らかな波を泳がせる。そして肉色と彫りのある筋肉が垣間見れて、欲情をかき立てる……新しいセクシーだ!エクスタシーワールド!
    次の撮影はふみやさんたちも一緒につれていきましょう…
    そんなことを考えながら、天彦は眠りに落ちてしまった。白黒ちゃんがそっと布団の中に入ってきて、目を奇妙に輝かせながら彼を見つめていることにも気づかなかったまま。

    「起きて、天彦」
    聞き慣れた声が呼んでいる。目を開けると、眩むほど鮮やかなオレンジ色が目に入ってきた。
    「…ふみや、さん……」天彦が呟きながら、ゆっくり目覚めた。
    いつの間に自分はシェアハウスに帰ったんだろう。いや、ゆうべは別荘でマントルのあるベッドで眠ったはずだ。違ったとしても、ここはぼんやりと白い光に包まれていて、シェアハウスの部屋とは思えない。
    ゆっくりベッドから体を起こすと、柔らかい触感が体から滑り落ちてきた。花びらが何枚か落ちてきた。隣にも柔らかいバラの花びらが散らばっていた。視線をそらしながら、はっとした。そばに男が二人。というより、ふみやさんが、二人…???
    「え!?こっちもふみやさんが?!」
    いつのまにこんなセクシーな一夜を…
    ふみやとよく似た顔が何も言わずにこっちを見ている。ほぼ同じ顔立ちだが、身なりや雰囲気が微妙に違っている。一人は前髪が半分掻きあげられて、上半身に襟毛のあるジャケットのみ羽織っている。引き締まった胸筋に垂らした金属ネックレスが、より派手に威張る。
    もう一人はてっぺんの髪が白に染められ、白と黒半分の聖職者みたいな装いに包まれている。そして心が見抜かれてしまいそうな、天から見下ろすような眼差し。その視線を交じると、思わず自分の存在を塵の如くに感じさせ、ひるんでしまう。最も不思議なのは、その頭の上に天使のような輪っかが浮かんでいる。まるでそのあたりの光をことごとく呑み込むような、漆黒の輪っかだ。
    ふみやさんが、三人いる。
    いや、確かに自分のまわりには「三匹」のふみやさんがいるが、あれは猫たちだ。それとも、彼らも猫だと言えるんだろうか。たしかに……それぞれの頭には色の違う猫耳と、穏やかな視線とは裏腹にゆらゆらと動く尻尾がついている。たとえ他の二人にあったことがなくても、自分が知っているふみやさんの頭には、決して猫耳なんかついていない。

    「あの、これはいったい……どういうことですか?」
    ごくと唾を呑み、天彦は慎重に聞いた。
    「まぁまぁまぁ」誤魔化すように平然とした口調で、慣れている方のふみやが口を開ける。
    「そんなに怖がらなくていいよ。天彦もずっと俺たちと一緒に暮らしているだろ。」
    「まさか本当に猫のふみやさんたちですか……どうして、人間の姿に…?」
    「そんなことどうでもいいよ。天彦は俺たちのこと、好き?」
    マフィアのボスみたいなふみやが急に顔を近づけると、反射の少ない紫の瞳に目を剥く天彦の顔が映っていた。
    「す、好きです、とてもセクシーで…でも!!猫さんたちにそういうつもりは…!」天彦は慌てて口を押さえ、ふみやの顔に向かってつい本音を言ってしまった。決して猫にそんな汚らわしい思いを抱いていなかった!ただこの姿で話かけてくるのは反則すぎるせいだ……!
    「でもさ、最近俺たちいつも腹減ってるんだね。ペコペコ。」
    普段のふみやが少しせつなく語った。
    「そ、それは……」
    「これ以上腹が減ったら、我慢できなくなって天彦を食べちゃっても、仕方ないよな?」
    耳のうしろまで前髪を半分かきあげた少年の顔が目の前に迫ってきて、襟毛が首筋を擦り、ひどくかゆくなってきた。
    「ちょっと待ってくださいふみやさん!いや、僕は本物のふみやさんとはまだ付き合い始めたばかりですよ?!いくら僕の夢でも、これはさすがに……!」
    どんどん腰を後ろに引いても三角の包囲網から逃げられない、無駄なあがきだ。たとえ百戦錬磨の世界セクシー大使でも混乱で背筋が硬直してしまう。ふみや本人と似て非なる姿だからか、あるいは、いつも寡黙のふみやがいきなり目の底から熱情が燃え上がって、自分を求めるようになった姿にあまりにも不慣れだからか。
    よく知っている姿だからこそ、とてつもなく頬が熱くなる。そしてまったく知らない姿だからこそ、絶句で躊躇ってしまう。

    「夢は現実からなるもの。我はただ天彦の心を読んで、その中に秘めた欲望(リビドー)を叶えただけに過ぎん。」
    黒白のふみやが淡々と口を開き、その声は直接天彦の脳内に響き渡った。
    「そして、夢は現実よりも素晴らしい。」いつものふみやが、淡い笑みを浮かべて言った。
    「だから、ここで俺たちと楽しもうよ。」
    「待ってくださいふみやさん、そこは……ぅ、あぁんっ」
    悪なる方に後から腰を抱きしめられ、いやらしい手つきでボディラインをなぞる。神なる方に顎を持ち上げられ、音もなく彼と目を合わせて、少し鈍い光を含んでいる深い眼底で射抜く。一番よく知っている方が耳元で囁き、熱い息が耳に入りそうで、ふわふわとした尻尾が蛇のように腕に絡みついた。
    「天彦のこと、めちゃめちゃ気持ちよくしてやるから。天彦も、俺たちの頼みを聞いてくれるよな?」
    口をそろえて彼らは聞き出した。男と少年の間に介在する眉間には色が漂い、その境目をぼんやりさせていました。
    「だって、俺たちは天彦が大好きだから…」
    スミレ色の瞳にゆっくりと笑みが咲き誇り、まるで毒を持ったような痺れが全身を走って、紫色の渦の中に堕とされていく…
    「はい……」

    「ピピピピ、ピピピピ」
    目覚まし時計が鳴り、顔を真っ赤にした天彦がベッドの上で目を覚ました。窮屈な股間をじっと見つめて、やがて大きなため息をつきながら早速トイレに向かい、体に付きまとって収まらない熱を洗い流した。

    「おう、天彦、お帰り。」
    そっと玄関のドアを開けたとたん、心臓が止まりそうになった。声をかけてきたのは、鮮やかなオレンジのコートに両手をポケットに突っ込んでいる少年だった。
    ああ、よりによってこんなときに、今一番避けたい人にぶつかってしまう。
    「あぁ、ふみやさん……おはようございます。」
    「うん、おはよう。ちょうどこれから朝食なんだ、食べる?」
    「いえ、結構です……もう外で食べてきましたから。」
    その姿を見ると、昨夜の刺激的な夢に引き戻されたような気がする。悩ましい熱が背骨を駆けて、居ても立ってもいられなくなる。しかし少年は、その些細な変化すら見逃さなかった。
    「どうした、天彦。どっか具合悪いの?」
    「あ、いえ……たぶん昨夜ちょっと眠れなかったから、ぼうっとしていたかもしれませんね。」
    心身ともに誠実な天彦は嘘をつくのが得意ではなく、少し目をそらして窮屈そうに答えました。実はすべて正常で、ただ今の自分はあまり正常ではない。
    「そうか」
    ふみやが半信半疑に呟いた。嘘に手慣れた分、嘘の匂いも簡単に嗅ぎ分けられる。天彦が何かを隠している。
    少し距離を縮めると天彦はすぐ目をそらし、視線を合わせようとしない。
    ふーん…
    やっぱりわざと避けている。てっきり最近の無駄遣いがバレたかと思った。天彦に知られたら、また甘いものを食べ過ぎないよう注意されてしまう。 様子から見れば、恐らくその件じゃない。
    「なんか困ったことがあったら教えて」
    「わかりました……ありがとうございます。」今度は天彦が心から微笑みを浮かんだ。何があったらわからないままだが、どうやら怒っているんじゃなく、なんかひやひやしてそう。ちょっと可愛い。
    ちょっと、からかってみたくなった。
    『正邪』の天秤は、音もなく「邪」の方へかすかに傾いていく。
    「それに」
    ふみやは天彦の耳元にそっと囁いた。
    「俺たち今、恋人なんだからさ」
    「ひゃあっ…?!」
    「え」
    ふみやの想像をはるかに超えて、天堂天彦はびくっと身震いして、まるでウサギみたいに玄関の向こう側へ飛び移った。この展開、昨晩のあの艶やかな夢の結末と全く同じだった。刻々と迫ってくる顔が、夢と現実をますます混同させる。
    「あ、すみません……」
    頬の熱が急速に上昇し、世界セクシー大使が初めてセクシーな雰囲気から逃げ出したくなった。肩で息をしながら、手のひらからドアパネルの冷たい温度で伝わってきて、ようやく目を覚ました。
    「ふみやさん、心配してくれてありがとう……でもやはり僕ちょっとおかしいです。体調不良かもしれないので、一回病院に行ってきます。みなさんに挨拶をよろしくお願いします!」
    淡々と答えたふみやをおいて、天彦は振り向かせず出て行った。 ドアが閉まると、ふみやは急用ができたから朝食は取っておくと依央利に告げて、すぐ玄関を出て後を追った。
    うっかりしていたせいか、天彦がまだあまり遠くまで行かず、ふみやに尾行されているのも気づかなかった。
    シェアハウスから海までそう遠くなかった。天彦の後をつけてアスファルトの道を渡って海水浴場に着き、砂浜の道が続く先まで。ドアを開けて部屋の中に入っていく天彦を見送りながら、ふみやはおしゃれな別荘を見て、眉をひそめた。
    ハウスの住人たちは皆マイペースだが、天彦が海辺の別荘を持っていることをたまたま知ったとしても、それ以上詮索する気はなかった。ふみやは迷わずドアを開け、靴を脱いで別荘の中に入った。
    靴下だけで猫みたく静かにフローリングを踏んで入ると、すぐ天彦の姿が見えた。彼は地面にしゃがみ込み、窓から差し込む光に向けて何かをしている。何かを開く金属音がした。
    「ふみやさん……」
    え、もうバレた?
    ふみやが音もなく目を剥いた。とっくに自分の尾行に気づがれていたのか?どうやって?
    でも負けたもんは負けた、天彦に見つかっても別に怖いことはないが。ふみやは居間へ上がろうと足を上げた。
    「おっと、さびのふみやさん……」と、天彦が力なくため息をつくのが聞こえた。
    さび?視線をずらすと、横から黒と茶色の混じった色の猫が弓なりになって、頭で天彦のズボンの裾に擦り寄ってくるのが見えた。
    「白黒のふみやさんもそうですが、昨夜僕に何をしたのですか?」隣では黒と白の牛猫が知らんがおで天彦の独り言を聞きながら、首をかしげた。
    「本当に変な夢でしたね……セクシーすぎて、さすがの天彦もお腹がいっぱいで、胸が焼けそうになりました…」

    おい、俺の名前で猫を呼んでるけど、しかも一匹だけじゃない。
    一瞬どう反応していいかわからず、呆然とするしかなかった。 天彦が話していた不思議な夢もとても気になった。 それに、一匹ずつ俺の名前で呼ぶって面倒くさくない?
    その時、茶トラの猫が突然フードボウルから頭を上げ、宙を覗き込むと、ニャーと鳴きながら天彦の周りを歩き、まっすぐ玄関の方へ歩いていった。
    「ふみやさん? どこ行くんですか?」
    天彦は慌てて呼び止めようとしたが、すでに猫は ドアの外に出ていたので、わけわからずついていくしかなかった。わけがわからずついていきました。
    玄関に着くと、見覚えのあるオレンジ色の人影がニャーニャー鳴いている茶トラの猫を見下ろしていた。
    「おう」
    「.....ふみやさん、何でここにいるんですか。」
    少々予想外だったが、この少年のことだ、そんなに意外でもない。聞いても無駄だろうけど、やはり単刀直入に声かけた。
    「まぁ、道に迷ってさ、たまたま天彦の姿見かけててここに来た。」
    青年は顔色すら変えず、そのまま言い続けた。
    「......って言っても、信じないと思うけど。」
    「確かに。僕についてきたんでしょう。」
    「まぁね。」ふみやはしゃがみこみ、猫に自分の匂いを嗅がせた。
    「俺はもう天彦の質問に答えたよな。次は天彦の番。」
    わけのわからない苛立ちの正体がわからないまま、伊藤ふみやは顔を上げた。 天彦に向けられた薄暗い視線が、彼を執拗に捉えた。
    「セクシーな夢って、何?」

    「猫が、俺の姿になった?」
    天彦の説明を聞いて、ふみやは少し考えごと。
    「何か不潔なものに取り憑かれたかも。天彦から元気を吸おうとする化け猫かもしれない、早く捨てたほうがいいよ。」
    俺まだ食べてないのに、お前ら先に食べやがったな。ふみやがチラリと見ると、白黒の猫は脇目もふらず、天彦が開けてくれたばかりの缶詰に専念している。
    「コホン……!」
    思わず咳出てしまった。どうしてすぐ察したの?!さっきまで夢の内容の説明はある程度曖昧にしておいたのに…!とりあえず水を一口飲んで、天彦は平気なふりをした。
    「ふみやさん、あまりでたらめなことを言わないでください。こんなに長い間飼っていて、僕も結構猫ちゃんたちのことがとても好きになりましたし。いきなり飼い主を変えるのもあまりよくないです。ただ一、たまたまふみやさんの姿になっただけで、そこはちょっと慣れないというか……」
    「冗談だよ。でも本当の話。古代中国の志怪小説にも記載された妖怪だから。俺たちだって、不思議な力があるとかあの博士に言われたし。」
    「それに、俺が天彦の夢に出てきたってことは、つまり天彦は俺に会いたいってこと?」
    「ま、またご冗談を……」
    「冗談じゃないよ。」
    まっすぐに彼の前に行って、赤くなった天彦の耳に手を添え、少し力入って顔をこっちに向けるようにした。
    「最近天彦にあまり会っていないのに、俺以外の変なものに変なことされた。すごくイライラする。」
    「…もう…わかりました。」
    天彦はにっこり笑って、親指でふみやのきゅっと結んだ唇をそっとなぞった。
    「拗ねている坊やを少し慰めてあげましょう。そうですね、今日は特別な日なのに、忘れてしまうところでした。」
    「子供扱いすんな。」
    お互いに近づき、軽くキスを交わした。
    「ハッピーバレンタイン」

    「猫と同じ名前ってなんか気に食わないから、名前を変えてよ天彦」
    ふみやは冷蔵庫を開けて、朝ごはんになれるものを探す。二人ともまだ朝食を食べてなく、天彦がここで簡単なものを作ろうと提案した。
    「急に変えてと言われても、なかなかいいものが思いつかないですよね……」
    「食べ物からつけるのはどう?最近そういうの流行っているみたい。簡単だし。」ふみやが意外と普通の提案出してくれた。
    「そうですね…見た目から言えばロールケーキ、海苔せんべい、ごま餅とか…どうでしょうか?」
    「へえー…もう腹減ってきた」ふみやは「海苔せんべい」の首筋をつまんで軽く持ち上げた。
    「おいしそう。食べていい?」
    「当然ダメでしょう!やめてください、変な冗談はよしてください!」
    たとえ冗談でも、表情のわからないふみやの口から出ると本当にやってくれそうな気がして、ゾッとする。それにこの人は今、明らかに猫ちゃんたちを脅したんでしょう!
    その一方、さび猫はかなり落ち着いていて、ふみやと穏やかに見つめ合っている。まったくやんちゃなふりが見られず、人間並みの危なっかしい雰囲気が纏っている。
    「ダメ?なんで?すごく食べたいんだけど、ロールケーキとか、海苔せんべいとか、ゴマ餅とか。今マジで腹減ってるから。」
    「すぐ本物の食べ物を作るから…」
    天彦はどうしようもなく、自ら明らかな罠に入り込んだ。それに今ふみやの口から腹が減ってるとか聞くと、つい夢のことを思い出しちゃいそうで、早めに止めて頂きたい。
    「ですから、猫を放してやってください。キレたら、引っかかれるかもしれないんですよ。」
    「やったー。やっぱ天彦やさしいね。」


    それ以来、別荘は彼らだけの秘密基地になった。ふみやは静かなところが好きだ。波打つ潮の音が窓の外から入ってきて、淡い色のカーテンがそよ風にめくられ、とても心地よく、読書にとって最適な場所。たまたま天彦も一緒にリビングで雑誌を読んだり、外に出て海に潜んだりサーフィンしたり、または日光浴で肌の色を少し濃く焼いたりしている。セクシーに限りはない。たまにはイメチェンで新鮮さと豊かさを求めるのも必要だ。
    猫たちは大人しいからか、それともただふみやのことが眼中にないからか、互い何事もなくマイペースでのんびりしている。時々本を読んでいると、猫がソファに飛び上がってふみやの膝の上に乗ってくる。一匹、二匹…三匹。なんとも可愛らしい光景で、思わずスマホでこの貴重な瞬間を残したくなる。するとふわふわの丘たちに封印されたふみやが、絶句した目でカメラに向けてくる。
    時計の針が直角になり、午後三時近くになると、ソファの上の一人三猫がいっせいに天彦をジーと見てくる。おやつの時間だ。
    まったく同じ目つきをしていて、違う生き物でなければ、あの日自分が四匹目の子猫を見逃してしまったかと疑いたくなる。ずっとそのまま動かなかった場合、猫は膝から飛び降りて、二人が買ってくれた音声会話用のカーペットで次々とボタンを押し始めた。
    「おやつ」「天彦」 「好き」「おいで」
    賢い猫ちゃんたちだが、その悪知恵は全部エサをねだることに注いでしまった。ほんと、どこかの黒髪の若者によく似ているものだ。すると猫たちの鳴き声にうんざりしたふみやも天彦の前にきて、同じく顔を上げて「ニャー」と無表情でおやつをねだる。
    「ふみやさん、めっ!」
    しかし、結局いつも天彦の敗北で終わる。
    「なぜあなたたちは、ほとんどふみやさんを呼ばないでしょうね…」
    ため息をつきながら、仕方なく物置に向かった。
    「さぁ、天彦が好きだからじゃない?」
    振り向く彼の視線を受けて、ふみやは淡々と笑みを浮かべながら、手にした本を次のページへめくった。


    恋という字と
    猫という字を
    入れ替えてみよう

    「あの月夜に
    トタン屋根の上の一匹の恋を見かけてから
    ぼくはすっかり
    あなたに猫してしまった」と

    それからブランディをグラスに注いでいると
    恋がすぐそばでひげをうごかしている

    ーー『僕は猫する』寺山修司
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💖💖💖😍😍💜💜🐈🐈😭😭💘💘💘🙏🙏💖💖💖😭😭❤❤💞💞💞❤💘💘😭😍
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