お前が好きだ最近何故か、
ソテツが気になって仕方がない。
ふとした瞬間、アイツを見てしまう。
その度、ドキドキする。
何故ドキドキするのかわからない。
「はぁ…」
誰も居ないレッスン室で、溜息をつく。
(一体何なんだよ…)
モヤモヤした気持ちを抱えながら、
晶達が来るまで一人で練習をする。
そのうち、晶達が来て、一通りやった。
ある程度練習をし、休憩をする為に
レッスン室を出た。
タバコを吸っていると、ソテツが来た。
「よっ」
そう言いながら、俺の隣に座った。
おもむろにタバコを出し、
火を点けようとしたが、どうやら
ライターを忘れたようだ。
「ライター、貸してくんねぇか?」
「良いぜ」
ライターをソテツに渡す。
「サンキュー」と言って、タバコに
火を点けて、俺にライターを返した。
「ふ〜」
目を細めながら煙を吐き出す姿は
様になっている。
思わず見惚れてしまいそうになる。
(何考えているんだ…⁉)
思考を振り払う様に、頭を振った。
そんな事をしている俺を、
不思議そうにソテツが
見ている事に気がつかなかった。
タバコを吸い終わり、レッスンに戻る。
ソテツも店に戻って行った。
ある日、ソテツに二人きりで
飲みたいと誘いが来た。
断る理由もないので、了承した。
ソテツが連れて行ってくれた店は、
中々良い所だった。
料理や酒の種類が豊富だ。
普段なら、余り酔わない俺だが
珍しく酔った。
「そろそろ帰るか」と
ソテツが言ったので、お開きになった。
「今日は、俺の奢りだ」
そう言って、俺の分まで払ってくれた。
少し覚束ない足取りで、店を出た。
火照った体に、風が心地よい。
「それじゃ、今日はありがとな」
礼を言い、別れようとした時、
ソテツが声をかけて来た。
「なぁ、お前が良ければ、家に来るか?」
一瞬、驚いた。
まさか、家に来るかなんて
言われると思わなかったからだ。
俺は悩んだ。
(気になる相手の家に行く…しかも二人きりだ)
悩んだ末、行く事にした。
「あぁ、行かせてもらう」
そう返事をし、歩いて行く。
途中、コンビニに寄って、買い物をした。
ソテツの家に着き、買った物を
冷蔵庫にしまい、ビールやつまみを
テーブルに置く。
飲み終わり、片付けを済ませ
帰ろうとした時、ソテツが声をかけてきた。
「もう遅いから泊まっていけよ。
予備の布団はあるから」
一瞬、どうするか考えた。
確かに遅いし、タクシーが
通っているかわからないし、
歩いて帰るにしても、家まで遠い。
言葉に甘える事にした。
(ドキドキするな…)
「じゃあ、言葉に甘えさせてもらう」
「布団、用意するから待ってろ」
そう言うと、部屋に入って行く。
ソファーに寄りかかり、目を瞑る。
(ソテツと二人きりという状態が、
嬉しくもあり、恥ずかしくもあるな…)
ソファーに寄りかかっていたら、
何だか眠くなってきた。
「ふぁ…」あくびが出た。
そうこうしているうちに、ソテツが戻ってきた。
「黒曜、布団の用意出来たぜ」
「あぁ、わかった」
ソテツの部屋に入り、
布団に入ろうとした時、後ろから
ソテツが抱きしめてきた。
俺は、びっくりした。
まさか、抱きしめられるとは思わなかった。
「ソテツ…?」恐る恐る、声をかけてみた。
抱きしめていた腕が離れ、今度は、
真っ直ぐ見つめて来た。
俺は、凄くドキドキしている。
真剣な表情で真っすぐ俺を見ているソテツに。
何か言おうと口を開きかけた瞬間、
ソテツがキスをしてきた。
「何…で…?」
俺は驚きの余り、聞いた。
何故、抱きしめたり、キスをしてきたのか。
「それは、お前が好きだからだ」
まさか、ソテツが俺を好きだと
思わなかった。
「本当か…?嘘じゃないよな…?」
信じられなくて、思わず聞いた。
「嘘じゃないぜ。本当にお前が好きだ」
俺の頬に触れ、微笑みながら言う。
何時もの、からかう様な表情ではない。
嬉しくて、思わずソテツに抱き着いた。
驚いていたが、しっかりと抱きしめ返してくれた。
額を合わせて、見つめ合い、何度もキスをした。
(あぁ、ソテツを見てドキドキして
いたのは、好きだからか…)
ソテツの気持ちを知る事が出来て、嬉しかった。
(好きだ…ソテツ…)
結局、布団を使う事はなかった。
ソテツのベッドで一緒に寝たからだ。
俺を抱きしめ、優しく頭を撫でてくれた。
心地良くて、いつの間にか眠っていた。
Side:ソテツ
眠っている黒曜を見つめる。
穏やかな寝息が聞こえる。
普段とは違う、その表情に、
思わず顔が綻ぶ。
(こんな姿を見られるのは、俺だけだな)
玉砕覚悟で想いを告げた。
受け入れてもらえるとは思わなかった。
抱き着いて来た黒曜を受け止め、額を合わせ
見つめあった後、何度もキスをした。
(真っ赤になった顔を見た時、思わず強く抱きしめたな…。)
これからは、二人きりの時は
甘やかしてやるつもりだ。
黒曜を抱きしめ直し、額にキスをして
俺も眠りについた。