「帰ったぞ千空!」
郊外のごくありふれた一軒家。玄関から響く明朗な声色に、家主である千空は腰を上げて同居人を出迎えに向かった。
「おかえり。早かったな、龍水」
「はっはー、今晩のことを考えたら自然と仕事も早く片付いてしまってな」
「随分とおかわいいこと言うじゃねえか」
素直に思ったことを口に出せばほんのわずか頬を染めた龍水に突然背中を抱き寄せられ、爽やかな柔軟剤の香りが千空の胸を満たした。空いた左手は輪郭をそっと撫でて、そのまま額にキスを落とされる。玄関の段差があってもなお追い付けない身長差に若干のいら立ちを覚えつつも、このキザな行動に龍水なりの照れ隠しが含まれていることを千空は知っているので、彼の機嫌を損ねることはなかった。
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