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    韮山小田

    大体尻切れ蜻蛉

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    韮山小田

    DONEキスブラ身内ワンライ3 「甘い誘惑」「好きだよ」
    この男の常套句である。
    酒精に目の下を朱に染める姿はなるほど昼間の青白い顔よりも魅力的であった。
    男盛りの28という年齢、ヒーローという社会的地位、それなりに整った顔立ちに、骨に響くような低く甘い声。
    腰に手を回されて、付け根のあたりを撫でさすられる。暖かい色の照明の下で二人きり、膝を合わせるように並んで座ってそんな性感を煽るような仕草をされれば、プロの女でさえころりと身を任せるのかもしれない。

    しかしブラッドは初心な小娘ですらない。
    友人のごつごつした指が腰骨を弄るのにも、呆れて手を振り払うだけである。

    「眠いのならベッドへ行け」
    「え~…やだよ…」

    宙ぶらりんになった手を一瞬見つめたキースはしかし懲りてはいない様子だった。同性の友人に対して何が楽しいのか、酔ったキースは大体にしてブラッドにべたべたと絡んだ。
    出会った当初が嘘のようである。
    15のキースは周囲を小馬鹿にしたような目をしていて、それだけパーソナルスペースが広かった。
    しかし年月は彼のかたくなさに勝ったようで、30へのカウントダウンが終わりに近づいてもまだこんなことをしている。
    恋人でもあるまいし、他 1700

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    DONE西ワンドロ1ジュとキじっとりと汗ばむ夏の日だった。前日に降った雨がそうさせるのか、ニューミリオンでは珍しい湿度の高い午後。
     流石にこんな日に空調の整えられた室内を出るのは煩わしく、ジュニアが入居してから強化された防音の自室でギターを携え時折傍らのノートに何事かを書き込む。不在の同居人にうるさいと邪魔をされることもなく、久しぶりに充実した一人の時間であったのだが。
    「…なんだよ、じっと見て」
     いつ入ってきたのか気がつかなかった。顔をあげてぐっと伸びをすると丁度正面に位置する年上の色男のベッドにだらりと両手をついて、キースがぼんやりとジュニアを見つめている。
    「懐かしいなと思ってよ」
     何が? そう聞こうとして、目線はジュニアではなくその下に向けられていることに気がついた。
    「てめえもギターやんのか?」
    「やるってほどじゃ…」
     ぱっと華やいだジュニアの表情に圧されたように、キースは曖昧に言葉尻を濁した。
    「アカデミーの頃に、ちょっとだけ触ったことがあるんだよ。ダチがコピーバンドやりたいって言うからさ、付き合い程度だよ」
    「へえ! どこのバンドなんだ? おれ、結構古いのも知ってるぜ」
    「あ~、なんだったっ 1341

    韮山小田

    DONEキスブラ身内ワンライ2 バームクーヘンエンド普段立ち入ることがないという理由だけで、こうも妙な気分になるものだろうか。
    古い古い記憶のひとつに、片手で数えられるだけの回数訪れたことがあった。
    その頃のキースはまだただの子供で、特別なことと言えば人一倍痩せて薄汚れていることくらいだった。
    母が見知らぬ男と出て行って。酒浸りの父はキースなど見えていないかのように振る舞う。空腹を訴えればようやく気付いたというように鋭い舌打ちを響かせて重い拳を打ち下ろした。
    生きるために家を出た。盗みを働くほどの知恵も体力もなかった子供を僅かでも生き永らえさせたのは、ここだった。

     ◆

    「ブラッドもようやく結婚か~俺たちもそろそろかなあ?」
    「どうかねえ。恋人に振られたばっかの誰かさんにはまだまだじゃねえの」
    「うう…。でも、俺が悪いんじゃあないからね、たぶん…」
    自身なさげに俯くディノは、つい先日恋人と別れたばかりなのだという。
    かく言うキースも、結婚を考えるほどに付き合いを続けた女性は一人もいなかった。
    ヒーローにはありがちな話である。
    「『仕事とわたしどっちが大事なの』なんて台詞を聞くとは思わなかったよね…」
    自分からアプローチしたのだという 1332