この屋敷にクラージィを招くのは何度目だろう。
移動がそれほどクラージィの負担にならないエリアに、ノースディンは別荘を構えた。
初めのうちはノースディンが新横浜に赴くばかりだったが、やがて食事や使い魔の猫を口実に屋敷に誘えるようになった。それも慎重に回数を重ね、クラージィは時折ノースディンの屋敷に泊まるようになっている。夜も眩しい街を離れる時間は、たまにならお気に召すらしい。
今夜も今までのように、クラージィは使い魔にもてなされ、ノースディンがふるまう料理を堪能し、デザートまで楽しんだ。
いつも通りなら、この後は穏やかな人間文化に触れるなど、静かに過ごすのが常だった。
テーブルにつかせて、目の前のグラスをワインで満たすと、クラージィは怪訝そうにそれを見つめた。自分にだけ出された杯に、ただの乾杯を望まれてないのはわかるのだろう。
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