ニールが荷造りをしている最中、視界の端で何かが蝶の飛来のようにヒラヒラと揺蕩っていた。
此処は高級ホテルの高層部にあたる一室。窓はピッタリと閉め切ってあり、闖入者が一匹も迷い込んでくるはずがない。そこでニールはスーツケースから視線を一ミリも外さず、大体の勘を頼りに前振りもなく手だけを動かした。
忽ち片手に捕まった蝶らしきものは上品な淡い青の色彩を放ってたが、あろうことか四角い形の翅をしている。
手にしたものを得意げに振って見せると側に立っていた男が悔しがるそぶりも見せずに空っぽの手を軽く上げた。
「もう少し遊んでやろうと思ってたのに」
「それは残念。僕だって日々鍛えられてるんだよ、優秀な先生のおかげでね」
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