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    neko

    @neko22suki
    ポイピク始めました。
    ジャンル垣根なしの雑多垢です。
    好きなものを好きなだけ。ネタバレありです。
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    💝ハッピーバレンタイン【ニル主編】💝
    ⚠️学生AUなので苦手な方は注意してください⚠️

    ##ニル主

     イベントにはカラーがある。
     イースターには黄色や若葉色。ハロウィンにはオレンジや黒。クリスマスには緑や赤。
     毎年忘れられることも飽きられることもなく街がラッピングされていく。そうして人々は季節の移ろいを感じるのだ。
     つい先日まで緑と赤、そして新年を祝う花火めいたスパンコールカラーが主体だったのに世界は目まぐるしく次の色に変化している。
    「……いつ見ても甘ったるい配色だな」
     ニールは登校途中にある売店の販促ポップを見ながらボソッと本音を漏らした。
     ピンクと淡いブラウン。これだけでなんのイベントが発生するのか分かるくらいに世間に浸透している。視覚情報だけで何故だか甘い香りまで漂ってきそうだ。
     ハッピーバレンタイン。
     どこもかしこも恒例の文言と共に華々しい贈り物が売られている。チョコレートもその一つだ。おかげでこの一日だけは毎日買っているものが殊更買いづらい。
    「なんでこんな居たたまれない思いしなきゃならないんだ」
     安い四角錐台のチョコレートを五つ。ニールが毎朝欠かさないルーティンである。なのに今日に限ってはそこはかとなく生温かく見守られるのは甚だ心外だった。
    (まぁいいや。こんな浮かれっぷりも残りあと僅かだ)
     過ぎれば呆気ないほど日常に戻る、と溜息を吐いて店を出た。その瞬間背中にドンッと物凄い衝撃を受ける。車に轢かれたのかと思い振り返れば、車以上に驚愕の犯人が立っていた。
    「おはよう、ニール」
     とびきりの笑顔がそこにあった。この煌めきは朝日のせいではない。自発の光エフェクトが今日も元気に溢れていた。ニールは輝きに目を焼かれながらも対面する。
    「おはよう。早いね、練習してたの?」
    「あぁ、大会があるんだ」
     我が校が誇るフットボールのエースは満面に笑った。楽しそうな様子を見てるだけで、こっちまで幸せな気分になる。そういう魅力が校内きっての人気者たる所以なのだろう。
    「朝ご飯買うから待ってて。一緒に学校行こう」
     そう言うと返事を聞かずにさっさと中に入ってしまった。断る理由もないので店先で待つことにする。朝食を選んでいる後ろ姿をぼんやり眺めながら手の中でさっき買った物を転がした。
    (大変な一日になるんだろうな……)
     これより始まる騒々しいチョコレート戦争の中心核に差し出がましい同情をしてみる。自分には関係ないけれど、と自制するのも忘れない。
    (声をかけてもらえるようになっただけで充分じゃないか。それ以上を求めるのは贅沢過ぎるだろ)
     ずっと見つめているのも怪しいかと思い直して視線を外す。手持ち無沙汰になったニールはさっき買った内の一つを口に放り込んだ。
     馴染んだ味が口内に広がる。今日は特に甘い気がして「うーん」と意味のない呻きを零した。

    ※ ※ ※

     朝に一つ。午前授業の合間に一つ。お昼に一つ。午後の眠気覚ましに一つ。そして。
     西日が差し込む放課後の教室でぼんやりと窓の外を眺めながら中身を取り出す。すると俄に廊下が騒がしくなった。
     段々近づいてくる駆け足。
     勢いよく開けられるドア。
     「居た‼︎」と上がる大音声。
     順々に聞こえた三つの騒音に驚いて音源の方へ首をめぐらせる。そこには教室の扉に手を突き、肩で息をしている愛しの友人がいた。
     突然の登場で口を開けたまま動作が停止しているニールを余所に相手はひどく焦っているようだった。
     そんなに急いでどうしたのだろうか。詳細を聞くためニールは摘まんでいたチョコレートを丸ごと口内に押し込む。それを発見した闖入者が「あぁっ‼︎」と悲愴的な悲鳴を上げた。
    「えっ?なに?」
     口の中に入っている物が邪魔をして言葉がモゴモゴと不明瞭になる。はしたない行為であるが、今は目前にいる人物の方が大事であった。そのまま雑に咀嚼して、丸呑み同然に飲み込んでしまう。
     そんな気遣いをよそにドアの前に立ち尽くしていた顔が徐々に変わり、キッと鋭い視線がニールを襲う。何やら憤っている様だ。怒らせるようなことをした覚えがまるでないニールは困惑を隠せない。
    「なんで図書室にいないんだ」
     唐突に文句が飛んできた。こんな荒々しい口調を向けられたのは初めてかもしれない。ニールは言い知れない一種の感動めいたものを感じていた。けれど怒っている、というよりは落胆しているように見える。
     ニールは、ますます狼狽した。彼に怒られるのはいい。責め立てられるのもいい。だが、彼を悲しませるのだけは決してあってはならない。ニールの中にある確固たるルールだった。
     懸命に思考を巡らせて浴びせられた内容から原因を探ってみる。彼が苦情を言っているのはニールの日課に関することらしい。
     放課後、確かにニールは自主学習や読書をするため図書室にいる。誰も訪れない図書室は静かで作業が捗るのだと、そんな話をした次の日から彼も練習がない日はよく顔を見せるようになった。
     でも大会が控えていて今日は練習がある日だ。わざわざ練習を抜け出して図書室に行ったのだろうか。一体何故?
    「あー……あのほら、なんというか、居づらいというか」
     疑問は一旦置いておいて速やかに回答することにする。彼の憂いを一刻も早く取り払いたかった。
    「居づらい?」
    「図書室に行ったんだろ?いつもより人がいるとは思わなかった?」
     そこで言わんとしていることが分かったのだろう。窮屈そうに皺が寄っていた眉間が緩んでいく。
     図書室は人気が少ない。少ないと言うより誰も滅多に利用しない。なので平時は集中するのにもってこいなのだが、こういった告白系のイベントになると途端に利用度は跳ね上がる。そんな中で勉強ができるほどニールは図太くなかった。
     そこまで考えが至らなかったらしい。目に見えてガクンと下がる肩にいよいよ参ってしまう。ここまで落ち込む姿が見られるのは中々レアだが、どうせならばプラス方向のレアが見たい。
    「ゴメン。探してるって知らなくて。折角図書室まで行ってくれたのに」
     項垂れる彼に近寄り、肩に手をかけて宥める。傍に立つと太陽と土と汗のにおいがした。健康的な彼によく似合う。
     そんなことを考えつつ、探させてしまったことが申し訳なくてニールは取り計らいを試みる。
    「あー、用事って今見つかったんじゃ駄目かな?」
     挽回のチャンスがあることを祈るがフルフルと首を振られてしまった。
    「間に合わなかった」
     絶望的な返答にニールの方が折れそうだった。現在慰めている友人よりも悲しみに暮れている自信がある。
    「チョコ……」
     聞かせるためというにはあまりにも小さすぎる独り言がふっくらとした厚い唇からポロリと零れた。聞き間違いかと思ってニールが確認する。
    「チョコ?」
     鸚鵡返しをすると毛を逆立てた猫のようにビクンッと動くのが肩に置いた手を通して分かった。発したつもりはなかったらしい。取っ掛かりを見つけたので攻めてみる。
    「間に合わなかった?チョコが?」
     ニールは出されたヒントを口に出してみる。謎解きの初歩だ。今度は彼が慌てふためく番になる。
    「いや、それは、あの」
    「あぁ、僕がいつも持ってるチョコのこと?もしかして食べたかった?お腹空」
    いたの?と続けようとしてカレンダーが目に入る。二月十四日。チョコレート。練習を抜け出してまで探す理由。いつも食べるタイミングを知っているお菓子。
     バラバラだったパズルのピースが心情とは関係なく頭の中でパチリパチリとハマっていく。チラリと視線を彼に戻せば両手で顔を覆っていた。変なところで途切れた会話に全てを悟ったようである。
    「えっと」
    「頼む。何も言わないでくれ」
     弱り切った懇願がくぐもって聞こえた。そう言われても、誰もいない教室でお互いに無言は忍びない。
    「……僕からのチョコが欲しかった、って思っていいの?」
     返答がない。ただ、か細い唸り声が聞こえる。少ししてから片手が顔から剥がれて自身のポケットをあさり、おずおずと差し出された。そっと受け取ると馴染みのある四角錐台が掌に乗っていた。ニールは奥歯を食いしばって叫びそうになる衝動を押し殺した。
    「今朝買った」
    「……うん」
    「好きだって言ってたから」
    「……うん」
    「渡す代わりに、もらえたら……いいなと、思った」
    「……うん。そっか」
     ニールは現実味のない心地で彼から紡がれる囁きに耳を傾ける。夢なら夢でいい。
    (でも、それならもう少し欲張ってみてもいいかな?)
     緊張でかすかに震える手で彼の手に張り付いているもう片方の手を外し対面する。羞恥で濡れた瞳はニールが知っているどんな鉱石よりも美しかった。
    「あのね。いつもは五つだけど、今日だけは六つあるって言ったらどうする?」
    「え?」
     驚くのも無理はない。ニールとて自分が誰かへ贈るチョコを衝動的とはいえ用意する日が来るなんて思いもしなかった。
     あれだけ胸の奥で散々貶していても心に想う人がいるなら無視できないのが今日この日である。いつもより一つ多く買うニールを店員は温かい笑みで見送ってくれた。
    「僕もね。渡せたらいいな、って思ってたんだよ。……君に」
    (まさか貰えることまでは予想もできなかったけれど)
     正直に告白すれば悲嘆に暮れていた顔がみるみる喜色に変わっていく。まるで冬から春に季節が色づくように。
     見惚れていると真正面から飛びつかれた。慌てて抱き止めたが、みっともなく後ろに倒れ込まずに済んだのは奇跡に近い。
    「ニールは俺を喜ばせる天才だな‼︎」
    「そうだと嬉しいよ」
     どさくさに紛れてニールは腕の中にいる想い人を抱きしめる。それに対して嫌がられることなく、むしろ更にキツく両腕を首に回された。
     腕が解けないよう気をつけてズボンのポケットを探り、ニールが最後の一個を見せる。
    「受け取ってくれる?」
    「もちろん」
     そう言って、至近距離にある唇がうっすらと恥ずかしげに開く。真意に気づいてニールは耳が赤くなるまで熱を上げた。
     受け取り待ちをしている彼の背で慎重に包み紙を剥がし、中身を口元まで運ぶ。チョコが指先から離れて口の中に転がり込んだ瞬間、真珠のような前歯が名残り惜しんだ人差し指にやんわりと噛みついてきた。銀河を閉じ込めた瞳を覗き込むと挑発的な色が浮かんでいる。
     ニールは彼から貰ったチョコはしばらく食べられないな、と予見した。
     何故なら、腕の中にいる宇宙一美味しそうな甘い人の方を何よりも早く堪能しなければならないから。
    【END】
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