竜は行方不明 11月最初の日曜日。
大学構内の、かすかに色づきはじめた欅並木の下を、ヒュンケルは歩いていた。
バイト帰りで、もうすぐ日が暮れようとしている。
休日に教室を使って行われる、様々な資格試験の試験官助手は、結構いいバイトだった。試験用紙の配布と回収、試験時間に通路を歩き見回るだけで、昼の弁当も出るし、日給も当日に受け取れる。
ただし、自分も試験を受けているような疲労感にはおそわれるが……。
受験生が全身から発している緊張感から解放され、ヒュンケルはひんやりとした、 しかしまだ寒いというほどではない、ここちよい空気を吸いこんだ。
あたりの土の匂いを含んだ空気は、どちらかといえば春先のようでもある、とヒュンケルが思ったとき、少し前をひとり歩く人影に見覚えがあることに気づいた。
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