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    toma_d2hp

    @toma_d2hp ヒュンポプ沼にひっそり生息しています

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    toma_d2hp

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    ダイポプ記念日おめでとうございます!そっと参加させていただきます。
    最終回後から数年たったある日のお話。(以前アンソロに寄稿させていただいたお話の再録です)ダイポプ、ひそかに好きです…。

    #1023ダイポプ記念日
    1023DipopAnniversary
    #ダイポプ
    dipop

    赤い花 あたたかな日射しが、その野原を照らしていた。
     見渡す限り一面に咲いた赤い花の野に、風が吹きわたる。
     細く長い茎に、ふわりとした花びらを持った花が一輪づつ、首を傾げるように揺れていた。
     ひょろりとやせた木が、まばらに生えている。
     その一本に寄り添うように、小さな家があった。
     粗末な木の柵で囲ったなかに、数羽のにわとりが遊び、杭に繋がれたヤギが草を食んでいる。
     ほんの少しの畑と、古い井戸。
     ひとりの老婆が、わずかな木陰に置いた小さな腰掛けにじっと座っていた。
     花の揺れる音に、耳をかたむけているかのように。
     ふいに、強い風が吹き、老婆は結った髪を押さえたが間にあわず、花を模した古ぼけた髪飾りが草の上に転がった。
     老婆は手をのばし、草の上を探ったが、見つからない。
     悲しげにため息をつきかけたその時、そっと肩に触れる手があった。
    「これ、どうぞ」
     その手はごつごつとして大きかったが、明るく響く声は、まだ少年と言っていいものだった。老婆の手をとり、髪飾りをのせる。
    「…まあ、拾ってくれたのかい。ありがとうね」
     さっきまであたりに誰の気配も感じなかったのに。不思議なこともあるもんだねえ。
     盲目の老婆は、白髪にもとのように髪飾りをさしながら、心のなかで呟いた。
    「お若い方、あんたもパプニカの…調査の人なのかい?」
     何かに驚いたように、一瞬息を飲む気配がしたが、少年は落ち着いた声で言った。
    「いえ…違います。旅の途中で…」
    「旅の…?こんな所に旅人がくるなんて本当にめずらしい。あんまりめずらしいから、妖精か小鬼の類いかもと思ったよ。まあそうだとしても、親切な小鬼だけど」
    「小鬼…」
     少年が困ったようにくり返すのを聞いて、老婆は笑った。
    「もし水が欲しかったら、井戸を使っていいよ。もちろん…この土地の水が嫌じゃなければの話だけど」
    「嫌だなんて…助かります。有難うございます」
     少年がぺこり、とおじぎをしたのがわかる。
     井戸まで走ると、大急ぎでつるべを引き上げる音がきこえた。がぶがぶと水に口をつける音に、老婆の皺だらけの口元が思わず笑んだ。
     少年は、また走ってもどってきた。
    「ごちそうさまでした」
     老婆は見えない目を細めた。
    「いいんだよ。もし良かったら、少し木陰で休んでいかないかい?」
    「有難うございます。じゃあ…少し…」
     少年は老婆の隣に、腰をおろした。
    「…あの、さっきの、パプニカの調査…というのは…」
     おずおずと口を開く。
    「ああ、魔王との戦いが終わってからね、時折このあたりの様子を見に来てくれるのさ。困ったことがあれば相談にものってくれる。苗や食料を持ってきてくれたりね。最初はうさんくさい、施しは受けない、と言い出す者もいたが…今じゃこのあたりの者はずいぶん助けられてるのさ。他の国はおろか、もとはこの国にいた者さえ近づかない、見捨てられた土地だと思っていたが…」
    「そうなんですか…パプニカが…」
     少年の声に、年に似合わない、郷愁のような響きがあるのを老婆はふといぶかしく思ったが、口にはださなかった。
    「おばあさんはずっとここに…?」
    「おやおや。竜の騎士様の怒りを買って滅びた国に、もう人なんかいないって思ってたかい?生き残った若い者は、呪いや瘴気を恐れて、散り散りに国を出たけれど、身寄りのない年寄りはねえ…行くところもないし…死ぬなら自分の国でって思ったのさ。そんな年寄りだけがまばらに住んでるよ。あれからどれくらいになるのかねえ…もうよくわからないが、それなりに元気に暮らしてるよ」
     呪いや瘴気は、噂だけだったのかも知れないねえ、と老婆は笑った。
    「おれ…おばあさんの言うとおり、この国にはもう誰もいないって思ってました。はじめて、この国に来たんです。…おばあさんに会えて良かった」
    「嬉しいことを言ってくれるねえ」
     ふたりは、それきり黙ったまま、同じ野原を向いて、風に吹かれていた。
     しばらくたって、少年がひとりごとのように呟いた。
    「赤い花…遠くまでずっと、赤い花だ…」
    「昔から、この国では馴染みのある花さ。さっきあんたが拾ってくれた髪飾り、これも同じ花だろ?これほどたくさん咲いていた訳ではないが…きっとここの風景は、都が築かれる前の、ずっと昔の風景に似ているんだろうね」
     老婆も目の前の花野が見えているかのように言った。
    「花の野原に都が作られて、石畳や建物の下になった土のなかの種たちは、ずっと眠ってたんだね。でも、あの爆発で、みんな吹き飛んだ。地表がえぐれ、古い土がむき出しになって、種たちが目を覚ましたんだろう。次の春、都があった場所に一面に赤い花が咲いたのさ。そのとき、私はもう、それを見ることは出来なくなっていたが…」
    「目を…?」
     少し掠れた声で、少年が尋ねた。
    「爆風でやられてね…私は命は拾ったけど、うちのひとはそのときに…これは、その少し前にあのひとがくれた細工物でねえ、いまでも新品のときの赤い、綺麗な色が目に浮かぶよ。私はこんなもの、もう似合わない、って言ったんだけど、あのひとは似合うって…」
     言いながら、素朴な、今は色褪せた髪飾りを、老婆はそっと撫でた。
    「古ぼけてるが、私にとっちゃ大事なものだったのさ。さっき、あんたが拾ってくれて助かったよ」
     それから、ふと、驚いたように少年のほうに顔をむける。
    「どうしたの。まさか…泣いてるのかい?」
    「……」
     老婆は穏やかなため息をついた。
    「なんて優しい子なんだろ。でもあんたが悲しく思うことはないんだよ。…もう、ずっと昔のことなんだ」
     老婆のてのひらが、少年の頭にのせられた。
     固くて、癖のある髪を、何度も何度も撫でる。
     少年は、自分の膝をかかえよせて、そのまましばらく身動きしなかった。
    「もう、行きなさい。引き止めて、悪かったね。こんなおばばの話を聞いてくれてありがとうね」
     老婆は、明るい声で言った。
     ぐしぐしとこぶしで目をぬぐって、少年は立ち上がる。
     自分を撫でてくれた老婆の手を、そっと握った。
    「おばあさん、どうか、これからもお元気で」
    「あんたもね。竜の神様の護りがあるように祈ってるよ。泣き虫の小鬼さん」
     まだ涙の残る目のまま、少年は照れたように笑んだのだろう。
     そんな気配をかすかに風の中に残して、少年はあらわれたときと同じように、静かに去っていった。  
     老婆は、思わず立ち上がる。
     どうしてか、そうせずにはいられなかった。
    「…もう、行ったのかい?」
     老婆は、少年が向かったと思われる花の野に、嗄れた声で呼びかけた。
    「もし、あんたの懐かしい人がパプニカにいるのなら、あの子に聞いてみればいい。消息を聞けるかもしれないよ。きっとまだ野原にいるよ…」
     その声を、柔らかな風がさらっていった。



     どこまでも続く、赤い、赤い花。
     血みたいに、鮮やかな赤。
     ダイはそのなかを歩いていた。
     迷い続ける心のまま、ただ地上を彷徨い、はじめてアルキードの地を踏んだ。
     ダイの足下で、ゆらゆらと花たちは風に揺れる。
     父さんを襲ったような、あまりに大きい悲しみや怒りが、自分に襲いかかってきたらどうなるのだろう、とダイは思った。
     ずっとずっと受け継がれてきた戦いの記憶の大地から、そのとき芽吹くのは、きっと恐ろしい力なのだろう。
     眠る種が、次々に目覚めて、こんなにも地平を赤く染めるように。


     だから、だから、やっぱり会っちゃいけないんだ。
     いつか、また涙が溢れて頬を流れたが、ダイはかまわず歩き続けた。


     誰も、誰も、新しい戦いにまきこんじゃいけない。
     大好きな人たちをもし失ったら、おれはきっとおれじゃなくなってしまう。
     悲しみと怒りにまかせて力を使って、もっと大勢の人を悲しませてしまうかもしれない。
     あのおばあさんのように。
     この野原に眠る、たくさんの人たちのように。
     おれはひとりで行かなきゃいけないんだ。ひとりで…
     ダイは、がむしゃらに歩き続けた足を止めた。
    「もう、行かなくちゃ」
     うなだれたままダイは呟いた。
     口にしてしまえば、それが出来るような気がした。
     たくさんの仲間たちの顔が浮かぶ。
     そして、最後まで一緒にいた、大切な…
     涙がぽたぽたと、揺れる花々の間を落ちて、大地へと吸い込まれた。


    「どこへ行くって…?」
     あまりに思いすぎたので、その声を聞いたのだと思った。
     確かめるのがこわくて、ひどくゆっくりとあげた視線の先に、青年が立っていた。
     膝のあたりまで、赤い花に埋もれている。
     古びた草色のマントと、額の横に結ばれた明るい黄色のバンダナが、風に高くはためいた。
     息を弾ませて、ただ自分だけを見ている。
     ダイは茫然とその姿を見つめた。
     記憶より背が高くなっていて、雰囲気が大人びていた。好き勝手に跳ねていた髪は少し落ち着いたようだ。
     それでも、ひたすらに、胸が痛くなるほど懐かしい、その姿。
     アルキードの人たちを見守ってくれていたのは、お前だったんだ。
     ダイは麻痺したような思考のなかで、そう思った。
     はしばみ色の眸が、光りを宿して、ひたりと見つめてくる。
     ここを去らなければ、と思うのにどうしても動くことができない。
    「…丘から、お前の姿が見えた。思わず、移動呪文使っちまったよ。こんな近距離なのにさ」
     以前と変わらない、その口調。
    「情けねえツラすんな。図体ばっかりデカくなりやがって…!」
     そう言って口の端をひきあげて笑おうとしたのは、その眸から伝ったしずくのせいで、上手くいっていなかった。
    「…ポップ…!」
     唇が勝手に、呼びたくてしかたがなかった名前を呼んだ。次の瞬間、ダイはポップに抱きしめられていた。
     その腕の、身体の温かさ。顔を押しつけられた肩が、みるみる熱く湿っていく。何度も名前を呼ばれて、胸が熱くなる。
    「…お前、どこに行くっていうんだよ」
     掠れた声で、ポップが言った。
    「おれ、どうしたらいいのか…分からなかったんだ」
    「バカ野郎、そんなもん、一緒に考えりゃいいだろ…!」
     ダイは、目を見開き、それから、泣き笑いのような顔になる。そっと腕をあげて、ポップの身体を抱きしめ、その肩に顔をうめた。
    「…そうだね」

     どんな恐れも、ためらいもとどめることができず、その花は豊かに開く。
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    toma_d2hp

    DONEヲタヒュンとポップ【再録】
    時は21世紀になって数年後、秋葉原は趣都と呼ばれヲタク文化が爛熟していた…なぎささんの作品のヲタヒュンが大好きすぎて設定をお借りしたお話。似て非なる世界線と思っていただければ幸いです。なぎささんの素敵なマンガは下記にて…!!
    ■現代日本でオタクやってたら即売会でコスの売り子に一目惚れした話
    https://www.pixiv.net/artworks/89088570
    Wonder2 爽やかな風が、コンコースを吹き抜ける。
     JR秋葉原駅中央口改札前。
     天井が高く開放感がある上、改札の前の壁沿いに立てば、待ち合わせに最適だ。
     聖地巡礼者、外国人観光客、予備校生、チラシを配るメイド、普通に家族連れなど、さまざまな人種の坩堝と化した電気街口ではなく、こちらを待ち合わせ場所に選んだ自分勝ち組…多分。
     五月半ばの日曜日、気温、湿度とも申し分ないはずだったが、ポップとの待ち合わせ時刻が近づくにつれて、俺はだらだらと変な汗が背中を流れるのを感じていた。
     まずい。緊張してきた…。
      これ以上、改札方向を見続けることなどできはしない!
      落ち着け、とりあえず、かわいいもののことでも考えよう。オリゼーとか、猫とか…。あ、少しなごんできた。
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