夢見草散る 頬にあたる空気はひんやりと冷たいが、真冬とは違う、どこか湿った土の匂いが混じっている。
春の匂い。
ポップは重なりあう梢の先に広がる薄曇りの空を見上げた。
枝の先にはいつのまにか一輪のつぼみがふくらんで、うすべに色の花びらがほころびはじめていた。
のばした指先でそっと触れる。そこに花びらがあるとは思えないくらいの儚い感触だった。
それでも空を覆う雲が去り陽が射せば、花は次々に開き、咲きこぼれるだろう。
「よし。おれも買い出し急がないとな!」
今年は特に、準備が大変だ。
ポップは、村へと通じる坂道を歩きだした。
花は咲く。
のどかな陽気に、山の稜線が優しい色に覆われて霞む。
ポップは二階の丸窓を開けはなって目を凝らした。
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