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    toma_d2hp

    @toma_d2hp ヒュンポプ沼にひっそり生息しています

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    POIPOI 11

    toma_d2hp

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    ポイピクさん、テキストも投稿できることにはじめて気づきました…。平和になった世界でのヒュンポプ。ヒュンケルがパプニカを去る日、ポップがヒュンケルに渡したものは…(同人誌からの再録です)

    #ヒュンポプ
    hyunpop

    水と石の歌


     絶えまなく落下しつづける水の音が、次第に近づいてくる。
     密に茂った樹々の枝をかきわけながら、急な斜面を慎重にくだる。
     やがて目前に、つややかに黒い岩の上を幾重にも分かれて流れ落ちる滝が、姿をあらわした。
     両岸から投げかけられた大きな腕のような梢に守られ、鬱蒼と暗いなかに、水だけは光のように白く流れ落ちていた。
     水面からは、飛沫が霧のようにたちのぼる。
     近づくほどに、落下する水の轟きだけが、身体中を満たす。
     響きにひかれるままに、ここまで来てしまった。
     幼い頃も、遠くこの音を聴いていた。
     石の床に横たわり、見えない水の音を聞きながら眠った。
     触れると滲みだした地下水が冷たく指をぬらした、地底の城の壁の感触がふいに甦る。
     ヒュンケルは、流れに踏み込んだ。水面に突き出した岩を渡り、全ての思考を吹き飛ばすような轟音のなか、豊かに流れ落ちる水に手をのばした。
     水は、激しくヒュンケルの手のひらを打つ。決してとどまることなく。
     ああ、そうだ。こんな場所がいいかもしれない。
     暗い滝を過ぎ、光あるほうへ走り出す水が歌う場所。
     ヒュンケルは水に濡れた手で、首からかけていたしるしをはずした。
     同じ鎖に通された、しるしよりひとまわり小さくいびつな、それでも淡いみどり色に澄みとおった石を、ヒュンケルはそっと抜き取った。




     高台にある城のバルコニーから港町を見下ろすと、大通りに沿って一斉に咲きはじめた春の花の下、そぞろ歩きを楽しむパプニカの人々が掲げるランプが、小さな光の川のように見える。
     あのなかに、ダイやレオナのランプもあるはずだった。ふたりは街に出るのが大好きなのだ。
     ダイの帰還から一年、パプニカは様々な問題をかかえながらも、平和のなかにあった。
     ポップは、甘く香る、夜の南風を胸いっぱいに吸い込んで、息を整えてから言った。
    「…明日、発つんだってな」
    「ああ」
     背後から、低い静かな答えがかえってくる。
    「そっか」
     ポップは、夜空を見上げた。たえまなく先を急ぐように流れる薄い雲に、月の光が透けて綺麗だった。
    「ま、あれだよな。お前には、世話になったよな」
     なぜかもごもごとした口調になる。
     ヒュンケルが笑む気配がしたが、返事はなかった。
    「よく考えると、お前ってスゴイ奴だよ。いろいろあったよな…何度もやばいところ助けられちまったし。強ぇえしさ…。そーいや、最初の頃さ、拳で殴られたよな。死んだらどうすんだっつーの!まあ、そのあとは、妙に美味しい所ばっかりもってかれたような…」
     ポップは、バルコニーの手すりに片手で頬杖をつく。
    「不愛想なくせになまじ男前だから俺よりもてるしさ…あ、なんか、思い出したら腹たってきた…」
     ポップは口をつぐんだ。
     風に乗って、街のざわめきや、演奏されている音楽がかすかに届く。
    「…いや、今日言いたいのはそういうことじゃないんだよな」
     短い沈黙のあと、ポップはひとりごとのように呟いた。
     ヒュンケルは数歩を歩いて、ポップの隣に立つ。
     並んで、灯りにてらされてぼうっと浮かび上がって見える、眼下の満開の樹々を眺める。
     暗い海を渡ってきた風が、ふたりの髪を揺らした。
     いつか、こういう時間をとても大事なもののように思うようになっていた、とポップは思う。黙ったまま、同じものを見ているだけなのに、何かが満ちてくる感じがした。
     ヒュンケルがパプニカを去ろうとする理由は、わかる。パプニカの王女は、ヒュンケルの罪を、ヒュンケルに、そして国民に明らかにすることで、赦した。それは、大きな戦いの責任を問うときの、新しい裁きのかたちだった。それによって、憎しみの連鎖を断ち切ろうとしたのだ。
     ヒュンケルが、人間のために命をかけて戦い、ダイを探し、パプニカ復興に必要な作業のうち、危険なものほど進んで引き受ける姿を、ずっと見てきた。
     それでも。
     この地でヒュンケルが為すべきことは終わったのかもしれないと思う。パプニカでは、ヒュンケルの存在自体を痛みに感じる者は多い。彼等の心を慰めるのは、ヒュンケルそのものの不在なのだ。
     王女の騎士であることは変わりなくても、ヒュンケルは、この国を去るだろうと、もうずっと予感していた。
     わかっていたことだ。
     ポップは、がば、と身を起こした。
    「ヒュンケル…これやるよ」
     ポケットに手をつっこんで取り出した何かを、ポップは前を向いたまま、隣のヒュンケルの手に乱暴に押しつけた。
     てのひらに押しつけられたのは、小さなひと粒の結晶だった。
     アバンの輝聖石のように完璧なティアドロップではなく、いびつだったが、やわらかな丸みがあり、鎖がとおるような金具をつけてある。
     背後の部屋からもれる灯りに透かしてみると、淡いみどりいろをしていることがわかった。
    「これは…」
    「俺特製。召還魔法をつめてある。これを手のひらに置いて、俺を呼べば、行くからさ」
     ポップは、ヒュンケルを見上げた。はじめて会ったときから何年もたっているのに、やはり身長は追い付かなかったな、と思う。
     ずいぶん長い時間、一緒に過ごした。苦しい戦いのときも、絶望しか見えないときも、すごく嬉しかったときも。
    「お前が、俺を必要とするときがあったら、必ず…」
     必ず行くから。それだけを、いつもどおりの口調で言おうとしたのに、急に唇がふるえて、最後まで言えなかった。
    「ポップ」
     見つめてくる深い紫の瞳から、顔をそむけるようにポップはバルコニーの手すりに手をかけ、片足で乗り上げた。
    「じゃ、俺、行くわ」
     ふわり、と、ポップは手すりを蹴って空へ飛び出す。窓の灯りが届かない距離に安心したように、ふりかえる。
    「またな、ヒュンケル」
     その声と姿が、春の夜に消える。
     ヒュンケルはいつまでもバルコニーに立ち尽くしていた。
     
     
     
     夜が明け、花祭りの余韻にまどろむ城を、ヒュンケルは後にした。
     朝靄に包まれたなか、城門で見送るヒュンケルにとって近しい、懐かしい人たちのなかに、ポップはいなかった。




     滝の下の深みから溢れだし浅瀬を走り出す流れが、ヒュンケルのてのひらの上から、不思議に重さのないポップの魔法石を運んでいく。
     小さな石は、すぐせせらぎのなかに見えなくなった。
     手放したのは自分なのに、ヒュンケルは自分の内側にも冷たい水が満ちてくるのを感じた。
     持っていることはできない贈り物だった。
     持っていれば、望んでしまいそうになる。もう一度会いたいと。
     願うことのできない願いの重さに打ちのめされる自分に、驚きさえ覚える。こんなにも何かを願う心がまだ自分のなかにあることに。
     でも、もうあの石はない。これで良かったのだ。
     ヒュンケルは、ゆっくりと立ち上がった。
     そのとき、ばしゃん、という大きな水音に、ヒュンケルはふりかえった。
     ヒュンケルからかなり下流の、流れのまん中あたりに、頭を水に突っ込んで、四つん這いになった人影が見えた。
     がぼっ、という音とともに顔をあげると、濡れた犬のようにぶるぶると勢いよく頭をふった。
     飛び散ったしずくがきらきらと輝く。
     陽の位置が変わり、さきほどまで鬱蒼と暗かった流れの上に、いつのまにか光がさしこんでいた。
    「何で川!?」
    「ポップ…!?」
     ふたりが声を上げたのは同時だった。
     びしょぬれのポップが立ち上がってこちらを見る。その途端、ばしゃばしゃと水を蹴散らしながら、すごい勢いで近づいてくるのを、ヒュンケルは唖然として眺めた。
    「お前、まさか…」
     ポップは、すごい形相で、ヒュンケルに人さし指を突き付けた。
    「あれ、捨てただろ!信じられねえ!すっ飛んできた俺の身にもなれ!」
    「…喚んだら来るんじゃなかったのか」
    「お前、何年俺と一緒にいたんだよ!俺の作ったものが俺の言ったとおりなだけのものの訳ないだろう!」
     力説するようなことではないが、確かに覚えのある内容を力説されて、ヒュンケルは言葉につまった。
    「あれはなあ、危機的な状況だと判断したとき、自動的に俺を喚ぶんだよ!」
     ポップは余程怒っているのか、まだ怒鳴っている。
    「…たとえば俺があれをどこかにおいたり、手放すことは想定にいれていないのか…?」
    「ない!」
     断言してから、ポップは、はっとしたようにうつむいた。
    「お前は、あれをはずさないと思ったんだよ。おまえがアバン先生のしるしを絶対はずさないのと同じように…」
     ヒュンケルは、ポップを見つめた。
     水を砂が吸い込むように。
     わずかに離れていただけでも、このうえなく懐かしい姿を。
    「だから焦ったぜ、お前に何かあったんじゃないかと思って…まあ無事ならいいけど」
     ポップは視線を落としたまま言った。
    「…っていうかお前、捨てるにしても捨てるの早っ!まだあれから 一週間ですよ?」
     顔をあげ、おどけたように言う。けれど瞳は傷ついた色を隠しきれてはいなかった。
     答えないヒュンケルにポップは、言うまいとしていたことを、口にしてしまった。
    「どうして…」
     一度言葉が口から出てしまうと、もうとり戻すこともできなくて、ただこみあげてくる。
    「おまえは、もう俺になんか会いたくないってことか?」
    「違う」
    「どう違うんだよ。俺は、ずっと会いたくてしかたなかった。お前がパプニカを出た日から、 一週間しかたっていなくても。ずっとお前のこと考えてた、あのとき、バルコニーで、本当は」
     あふれだしてしまう。
    「お前が好きだって言いたかった」
     ポップの頬を、水ではない雫が流れるのをヒュンケルは見た。
    「…あーこんなのみっともねえ…」
     ポップは、びしょぬれのこぶしで、目や鼻のあたりをごしごしと拭った。
    「お前がどう思うか、勇気がなくて、逃げちまったのは俺なんだよな。悪かったよ。気持ちを押しつけてごめん」
    「……」
     ゆっくりとヒュンケルの片手があがり、自分の口元を、その大きな手で覆った。かすかに目を伏せる。
    「ヒュンケル…」
    「誰よりも…」
     くぐもった声でヒュンケルは言った。
    「誰よりもお前が大切だからだ。だからあの石を捨てた。お前と共にいたいと願うことが、お前の幸せにつながるとはどうしても思えなかった」
     ポップは、目を見開いたまま、しばらくヒュンケルを見つめた。
     手をのばし、ヒュンケルの口元を覆った手に触れる。それから渾身の力をこめてその手をひきはがしにかかった。
    「ポップ…!?」
    「邪魔なんだよ、その手」
     手首をつかんで引いた勢いにまかせて、ポップはヒュンケルの唇に、自分の唇を重ねた。
     滝の音が、轟々と体中に響く。
     それが、自分の心臓の音、流れる血の音なのだと、ヒュンケルは知った。




     小さな魔法石は、ヒュンケルに戻された。
     また会える。
     水の流れのように、行く道が違っても、離れていても。
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    toma_d2hp

    DONEヲタヒュンとポップ【再録】
    時は21世紀になって数年後、秋葉原は趣都と呼ばれヲタク文化が爛熟していた…なぎささんの作品のヲタヒュンが大好きすぎて設定をお借りしたお話。似て非なる世界線と思っていただければ幸いです。なぎささんの素敵なマンガは下記にて…!!
    ■現代日本でオタクやってたら即売会でコスの売り子に一目惚れした話
    https://www.pixiv.net/artworks/89088570
    Wonder2 爽やかな風が、コンコースを吹き抜ける。
     JR秋葉原駅中央口改札前。
     天井が高く開放感がある上、改札の前の壁沿いに立てば、待ち合わせに最適だ。
     聖地巡礼者、外国人観光客、予備校生、チラシを配るメイド、普通に家族連れなど、さまざまな人種の坩堝と化した電気街口ではなく、こちらを待ち合わせ場所に選んだ自分勝ち組…多分。
     五月半ばの日曜日、気温、湿度とも申し分ないはずだったが、ポップとの待ち合わせ時刻が近づくにつれて、俺はだらだらと変な汗が背中を流れるのを感じていた。
     まずい。緊張してきた…。
      これ以上、改札方向を見続けることなどできはしない!
      落ち着け、とりあえず、かわいいもののことでも考えよう。オリゼーとか、猫とか…。あ、少しなごんできた。
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