(膝の上に座らされ、頬を撫でられながら「かわいいね」「僕の仔猫ちゃん」などと、とろけるように甘やかされていた。柔らかい声、ぬくもり、指先のひと撫でが全て心地よくて、思考がふにゃふにゃになりかけていたその時――)
「……失礼します、先生」
(静かに扉が開いた。そこに立つのは、朝尊の部下のひとり。膝の上の彼女に気づくと一瞬だけ戸惑いの表情を見せたが、すぐに視線を逸らし、朝尊にそっと何かを耳打ちした)
(その瞬間だった)
朝尊の表情が――変わった。
笑みはそのままに、目元だけがすっと細まり、冷たい理性がその奥に浮かび上がる。熱を帯びた甘さは霧散し、代わりにひりつくような殺気のような、異質な空気が部屋の温度を数度下げた気がした。
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