鼓動に溶ける 傍らの温もりが優しかった。横たわった身体の全てが褥に覆われているというのに、その温もりは一等暖かくて、離れがたく愛おしい。
「…阿国さん」
自分でも恥ずかしくなるほどだった。呼んだ声はうっとりとしていて、甘ったるい。こんな声を出してしまう自分を七緒はこれまで知らなかった。こうして阿国と情を交わすようになるまで、こんな女の部分を七緒は知るよしもなかったのだ。
「…ん?どうかしたか…?」
少し微睡んだ声が頭上から返った。同時に馴染んだ掌が七緒の長い髪をすく。包み込むような優しい声と温もり、肌に当たる指先が堪らなく気持ちいい。
返事の代わりに七緒は頭を阿国の固い胸に擦り付けて、彼の腕の中に収まるように竦めていた腕を背中に回した。女よりも整った容姿のせいだろうか。男にしては華奢な印象がある阿国だが、無駄のない筋肉が付いたしなやかな身体は滑らかでも逞しく大きい。七緒に触れる手や呼ぶ声はしっかりと男のものなのだ。だが指に絡まる下ろした彼の髪、それはやはり女よりも艶やかで絹のように上等な手触りだ。それらは彼の平素の姿のように二面的な複雑さを表すが、しかし七緒にはそれが阿国の真実で、彼の本質であることを知っている。
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