水底の石 岐阜城の夜、七緒が去った縁側は静寂が落ちてしん、と落ち着いている。さわさわと庭木を揺らしながらそよ吹く夜風に髪を遊ばせながら、阿国は遙か遠い星を眺めていた。
ふと、小さく溜息が溢れた。それは阿国の心に落ち、その水面を微かに揺らす。
「──その溜息は何に対してだ」
頭上の影から声がしたのは、その時だった。
宗矩はむっつりと口をつぐんでいた。虫の居処が悪い訳でも、体調が芳しくない訳でもない。ただ、何か石がつっかえたように腑に落ちないものがずっと胸に溜まって、どうにも座り心地が悪かった。
心を乱すなど甚だ未熟だと、落ち着こうと星を見に屋根に登っていた時、軒下から話し声が聞こえてきた。確認せずともそれが誰のものかはすぐに分かり、立ち去ろうとも思ったが、宗矩はすぐにそれが決断できなかった。
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