エニエス・ロビー発ウォーターセブン行きの海列車に乗り込んだカクは、目に入った座席に腰掛け、出がけに用意したリュック一つを隣に置いた。がらんとした旅客車には、カク一人しか居ない。それはそうだ。エニエス・ロビーから乗る客など、政府の人間以外居るはずが無い。
カクは深く息を吐き出し膝に目を落とす。
長い任務が始まる。途方もなく長い、潜入任務が。
旅の道連れとして連れてきたリュックの中に大した物は入っていない。手慰みに適当に掴んでリュックに詰めてきた本でも読もうかと思ったが、やめた。読む気にならない。
カクは窓の外を見やる。長閑で平凡な、しかし真の姿は得体が知れず恐ろしい、広大な海が広がっている。
波飛沫を立てて、列車は走る。カクを一人乗せて。水の都に向け、走る。
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