にゃあ、にゃあ。にゃあん。
今日はやけに猫が騒がしい。李典は訝しげに眉を顰め、思わず周囲を見回す。
猫の声が聞こえたならば、猫の姿を探すのは当然。それがいつもより騒がしいならば、尚更。
李典は靴音を響かせながら石畳を歩く。段々声が近づいてくるにつれ、猫の声以外の何かも聞こえてくるようになった。
「困りました……」
にゃあ、にゃあん。
「あの、すみませんが、少し離れていただけたら……」
にゃあん。
「李典殿と食事に行く約束をしているのです……」
猫の声に混じって聞こえる、よくよく聞き慣れた人の声。
李典は壁の向こうから聞こえる声に耳をそばだて、そして声をかける。
「……楽進?」
「り、李典殿」
驚かさないよう声を努めて抑えて、壁の向こうから聞こえてくるその声の主に声を掛けると、どこか戸惑ったような声が返ってくる。
2006