ひゅ、と双鉞が空を切り、刃にこびりついていた血が振り落とされる。
戦場へ向かう曹操軍が遭遇した野党を相手にした。戦にも満たない小競り合いは、瞬きの間に終わった。
さすが張遼様、と兵達がそわそわと浮き足立つ。これからの戦を鑑みるに、良い傾向では無い。叱咤をしなければいけない。張遼は顔を見合わせ囁き合う兵達に鋭い視線を向ける。
「張遼殿」
声が聞こえてきた。
楽しげに弾んだ低く甘い声の主は、張遼が此度の戦で支持を仰ぐ軍師である郭嘉その人だった。
張遼は声の方へ顔を向けると、郭嘉はすぅと目を細め張遼を見つめる。
「郭嘉殿、露払いは」
済みました、と言いかけた声が、途切れる。
一歩、二歩と跳ぶように張遼の胸の中に近づいた郭嘉は、生真面目で堅い言葉ばかりを紡ぐ唇に、自らの唇を押しつける。
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