息が上手くできない。それは興奮からなのか、恐怖からなのか、分からない。
浅く短い呼吸を繰り返しながら、茨は眼前に迫った獣の顔を見た。長い銀色の髪と、歪んだ笑みを浮かべた口元、そして覆われている目元は目隠しの向こう側から焼け付くような視線を感じた。
「……私、喉を潰したりしていないよね? 久しぶりのヒトなのに、お喋りしてくれないのは、寂しいなぁ」
「…………ッ、」
囁かれる声は、酷く甘くどろりと何かを流し込まれた様な錯覚に陥る。頭が、うまく回らない。食われる。支配される。蹂躙される。殺される。思考が、恐怖と敗北に染まる。
カシャン、と乾いた音が響き、茨は弾かれたように視線を逸らす。己の手から離れた銃が、コンクリートの床の上でちいさく跳ねた。
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