月夜に見染めし桜花の蕾 白銀の淡い光が、待たせていた牛車と驚きに目を見開く従者の顔を照らす。ちらり、とその視線が天に向いたのは、あまりにも早くに現れた主に、時を確かめずにはいられなかったのだろう。
苦笑を浮かべたレイリーも、その視線を追いかけた。
薄闇に紛れ垣根越しに訪い空を見あげた時は、確かまだ頭が少し見えていただけであったはずの月。今は、夜空を円のかたちに切り取ったかのようにくっきりと見えるが、それでも、ようやく巳の刻にかかったかどうかというところだろう。
「——……」
月の面を眺めていると、今しがた臥所でさめざめと泣いていた女の白い肌が思い出され、そっとため息をこぼしたレイリーは視線を外した。
「……あの、次はどちらに……?」
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