薄く張った氷が朧ろに映す、月の顔。
夢と現の合間をたゆたい、あの形が真ん丸だったのは、何日前のことだったか、とぼんやり考える。
思い出そうとしても、眠りの誘惑に身を委ねかけた思考は、欠けた月の形と同じくはっきりとしない。
それでも、今夜はよほど晴れているのか、きらり、と月光の欠片が煌めくのが見えた。思わず手を伸ばしたけれど、それはすぐに闇に消えて。
それならもう、このまま眠ってしまおうか、と重たい瞼を閉じた、その時。
低く、けれど、はっきりと、名を呼ぶ声が聞こえた。
*
旅籠町で幼子たちに歓声をあげさせた白い花に覚えた予感は外れることなく、旅装の浪人が住まいである池の端に佇む庵に戻った時には、雪化粧をした水辺はすっかりその様を変えていた。
1704