英さんの朝の話 朝が来る。まだわずかに開き切らない目のまま、庭の草木に水をやった。向日葵の葉の上、弾かれて玉になった水が艶々と涼しげで良い。太い茎がまっすぐに伸びている。数日もすればこぼれんばかりの大輪を咲かせてくれるはず。それを思うと少し楽しみだ。
裸足で歩く縁側はまだわずかに夜の冷たさを残しているけれど、もう少しもすれば日が差して、温まるを通り越して暑くなってしまうだろう。日光は植物の生育に欠かせない要素だけれど、日の当たり過ぎは良くない。暑さは苦手なもののひとつだった。汗をかくと化粧も崩れるし、髪が首筋にまとわりついて鬱陶しい。
「おはよう皐月さん」
「母様、おはようございます」
丁度、化粧水を顔に塗っているところだった。花に肥料をやるように、顔の皮膚にも適切な栄養を与える必要があるらしい。ヤナギの人が言っていた。植物みたく水を与えて日光に当たるだけで済んだら楽なのに。
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