「代筆じゃなくて悪いんだけど、ここで書き損じの文を売って貰えやしないだろうか! この子に文字を教えたくてね。あっ、あと良い宿があったら教えて欲しい」
書簡の代筆を請け負う店で「紙屑を売ってくれ」と騒がしく注文をしてきた男に店主はしばらく面食らっていたが、オベロンたちを上から下まで眺めると「幾ら出せる?」と店の奥から多種多様な紙片を掻き集めてきた。傍らに奴隷を侍らせているオベロンのことを単なる貧乏人ではないだろうと思ったのかもしれなかった。
オベロンが返事の代わりに、懐から本一冊は買えないが下級妖精の年収くらいはある貨幣を取り出すと、店主は持ってきた書き損じの書簡や機関紙を一枚一枚検分して、依頼主に繋がるような文章を抜かりなく消し始めた。差し障りのない日常的な単語だけが紙の上に残されて、文字の練習に使うだけなら丁度いい塩梅になっていく。
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