真夜中は大人の時間真夜中、25時過ぎ。必要最低限に絞られた光量の中、男は一人上司より押しつけられた報告書の作成をしていた。本来居るべき部屋の主人は別件の仕事があるとして日が暮れる頃合いに出て行ってしまいこの場にはいない。表面上はいつもと変らず冷静さを絵に描いたものだが、時折叩きつけられるキーボードの音が荒々しいことを覗けば静かなものだ。
色の濃いアイシールドで目元は解らないが画面を睨む目つきは鋭く、見る者が見たら暗殺者でも彷彿とさせるだろうか。ただ単に目が疲弊を訴えているだけなのだが。
「……あの人には困ったものだ」
部下達からの差し入れの珈琲か栄養剤が効いているのか、睡魔の峠はとうに越していた。
一人ごちた呟きは呆れと苛立ちを綯い交ぜにしているが、直接言いたい相手は残念ながら不在だ。
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