「あ、ンの……クソ、野郎……」
たまたま夜中に目が覚めてちょっと喉が渇いたなあ、なんて思わなければ、こんな茨には出会さなかっただろう。秘密主義と言えばいいのか、強がりと言えばいいのか、はたまた臆病とでも言うのか。そういうところが彼にはあった。
「ちょっ、大丈夫っすかっ」
共有キッチンの冷蔵庫に水を取りに来たら、シンクに腕だけ残してしゃがみ込んでいる茨を見つけた。蛇口は開きっぱなしで、おそらく水を飲もうとしたのだろうコップが用途をはたさず転がっている。ざぶざぶ水が出ていて、立派なスーツの袖口が変色していたがとても今の彼にそれを気にする余裕はないだろう。オレにもなかった。慌てて駆け寄ってぐったりとした体を抱き起こす。
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