なつのはな「海とは縁遠かったので、テンション上がってたんでしょうね」
恥ずかしそうに顔を膝の間に埋めて、茨がもごもごと釈明している。
上二人がいる時はきちんとしている茨もオレと二人きりのときはジャージで地べたに座ったり、スマホを見ながらメシ食ったり、お腹いっぱいになってそのまま転がったりする。出かければ極たまにだけれど話題のいちごのデザートが食べられる店に連れてってくれたり、カロリーなんて気にせずラーメンに餃子をつけたり(でもあまり食べられなくて、いくつかおこぼれに預かる)変なゆるキャラを見つけると同室の子のために買ってみたりする。
だからあの時も、二人が撮影中で気が緩んでいたのだろう。波打ち際で、打ち寄せる波にはしゃいで足をバタバタさせたり、砂を踏みしめてみたり、蹴っ飛ばして水の掛け合いっこをしたり、じっと息を殺してスナガニが出てくるのを待っていたり、そういう、たいへん子どもっぽいことをして遊んでいた。そしてそれをおひいさんに激写されていた。動画で。
「SNSにあげないだけ感謝してほしいね、なんて言ってますけど、これ絶対脅しですよね?!」
「オレは別にこのくらい大したことないと思いますけど」
「そんなわけないでしょう!由々しき事態です!イメージダウンです!」
膝を抱えたまま起き上がりこぼしみたいにこてんと転がった。でも起き上がっては来なくて、ごろごろ左右に揺れている。あーだかうーだか呻きながら本人はこの世の終わりみたいに焦っているけれど、そんなにやばいもんじゃねえと思うけどなあとオレはもう一度動画を再生した。
『ジュン!』
あまくとろけだしそうな声がスマホから聞こえてくる。普段のツンケンしたクールな声じゃなくて、ワントーン高い、はしゃいだ、子どもっぽい可愛い声。遠くから撮影しているから表情まではわからないけれど、オレはこの時の茨の高揚した、おっきな目をさらにおっきくしてニコニコしている顔を知っている。から、思い出してしまう。麦わら帽子に制服なんて、なんでそんなことになったのか分からないけれど可愛い格好で可愛い声で可愛い顔をした茨。
「……やっぱ、大したことある、かも」
「そうでしょう?!」
がばりと起き上がった茨が嫌に必死な顔をしているところ悪いけれど、オレと茨の言ってる大したことの意味は、多分、めちゃくちゃ違う。