【#06】背伸びをしても届かない第6話「こっち向いて」
初めてシティーを訪れた時の衝撃は今でも覚えている。
触れたことのない価値観、見たことのない光景、新しい世界。
目に入るものすべてが新鮮で、それでいて理解不能で、これが“正しさ”というものなのかと初めて実感できた。
とりわけ誰よりも思慮深いタイオンは一行の中でも一番シティーへの興味関心が強かった。
シティーに滞在している最中は、暇さえあれば寄宿舎を抜け出し、医療施設や軍事施設を見回り、街中を歩いて人々を観察する。
好奇心に満ちた目をしながらじっくり観察した結果、シティー独特の文化風習の一部は理解することができた。
だが、いくら考えても理解が及ばない分野もある。
その代表ともいえるのが、“愛”や“恋”と言った感情に紐づく曖昧な概念である。
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