甘い熱 食わず女房という名の妖を知っているだろうか。
あるところに、妻帯していない男がいた。食事をせずよく働く者がいれば嫁に迎えても良いなどとのたまうその男に、ある時望み通りの女が現れる。嫁となったその女は男の望み通り飯を全く食わず、働き者であった。しかし、何故か米をはじめとする食糧の減りが早い。こっそりと食べているのではと訝しんだ男が仕事に出かけるふりをして家を覗くと、嫁が大量の握り飯を作っていた。そして、嫁は結っていた髪を解くとそこにはなんと大きな口が。そこへ握り飯を次々と放り込む女を見て、男は嫁の正体が人間ではないと知った。男は女に離縁を申し出たが、本性を現した女は男を攫い自分の住処へと連れ込もうとする。隙を見て逃げ出した男は菖蒲の生えた湿原に身を潜めることによって、なんとか助かったのだった。
48608