試されているのは俺のほうですホラー苦手なくせに、後輩の手前、肝試しを辞退するっていう選択肢がないのは普段「男前」で通ってる夜久ならではだろう。
「そんな熱烈にしがみつかれると、歩けねえんだけど」
うるせえ、って声も普段の威勢の良さは鳴りを顰めて、砂利を踏む音に掻き消えそうに頼りない。俺の腕を痛いくらい握りしめて、形のいい額はめり込むんじゃないかってくらい背中に押しつけられている。一刻も早くこの場を後にしたいだろうに、密着し過ぎたせいで自ら動きを制限する羽目になってる矛盾を、考える余裕はまるでなさそうだった。
俺としては、好きなやつとふたりきりで、なおかつ密着してるこの状況は願ったり叶ったりではあるけれど。掴まれた腕に伝わる指先の微かな震えを見てしまえば、それがあんまり可哀想で、そしてほんの少しの、いや、半分くらいは下心で、いつもと違う夜久の姿に悪いことだと思いながら浮き足立ってしまう自分もいて。
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