「待てや桐生ちゃん!今日という今日は逃がさんでぇ!」
「っ、くそ…勘弁してくれ兄さん!」
「うっさい!絶対捕まえたる!!」
──あの夜の事があってから数ヶ月、当然と言えば当然ではあるが桐生は真島を避けていた。勿論同じ東城会という組織に身を置いている関係上完全に顔を合わせないというのは無理がある、それ以外で真島を見かければ声を掛けられない内にその場を去ったし、出来るだけ彼の目に入らないよう気を遣って動いてきた。
酷いことをされただとか、軽蔑しただとかそういう感情ではなく、ただただいたたまれないのだ。言いくるめられたとは言え合意の上での行為ではあったが、まさかあれ程あられもない声や姿を晒すとは思っていなかった。
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