あと5分高校卒業と同時に上京してもう二年が経った。
お世話になった会長からの紹介で移籍したジムでトレーニングをして試合に出て。だけどそれだけではまだ食べていけないのでバイトで補填。
賄いがあるから都合がいいと、上京後すぐに見つけたボロい居酒屋のキッチンスタッフは肌に合ったのかずっと続いている。
「ねぇ、鵺路くん……」
「なん、オヤジさんどした」
オヤジ、とスタッフも客もみんなが呼ぶ小柄で丸くて、よく居酒屋なんて始めたなあんた、と思うような気の弱い店長が、汗に眼鏡を滑らせながらイジイジと声を掛けてきた。
頻回すぎる見慣れたその態度に、先の言葉を聞かなくても何が起こったか分かってしまう。
出来上がっただし巻きを皿にカツンと置いたら、うい、とオヤジさんに渡して、その頭越しにホールを覗く。あれか?と、無言で顎を指したら、オヤジさんが申し訳なさそうに笑って頷いた。
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