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    Enuuu

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    2、3年前に第五人格にハマっていた頃に書いたリッパー×探鉱者、傭兵×探鉱者の小話集。書いた時から情報がアップデートされていないので、記念日や誕生日の手紙で明かされている情報もあるかも。
    今は無き支部のアカウントへあげていた気がする。

    ##ててご

    探受け小話*あまいはなし_リ探



    「……体、壊しそう」
    「あの甘い匂いですか?」

     ノートンの視線の先には、スイーツをモチーフにした衣装を身にまとったサバイバーたちの姿があった。本物のそれらをつけているような香りが、彼らが動いたりはしゃいだりする度に強く香る。

     ジャックの言葉に、眉をひそめたままノートンは頷いた。

    「甘いもの、嫌いでしたっけ?」

     ジャックが知る限り、ノートンは荘園から出されるデザートを残したことがない。もっとも、ノートンが食事を残すことなどそうそう無いのだが。

     そう思いながら彼を見ると、ノートンは控えめに顎を引いた。

    「……いや、好き」
    「それなら、なぜ? 甘いもの好きな彼らなんて、あんなに目を輝かせてるじゃないですか」

     アンドリューの頭を食べようとしていたエマがマーサに止められている。

     ノートンは「うーん……」と唸ると、言葉を選びながら訥々としゃべり始めた。

    「幸せすぎて、怖い……みたいな。そういうことは無い? 自分が好きなものだからといって、それが周りに沢山あったら……。あまり、幸せだとは考えられない……気がする」
    「あなたが大好きなお金もですか?」
    「……嫌味な言い方」

     ノートンはじとりとジャックを睨んだ。
     ジャックは取り繕うように笑みを浮かべてみると、「それはスミマセン」と謝って見せる。

    「別にいいケド。……お金は、いくらあっても困らないから際限がないよね。金で買えないものはない、とまでは言わないけれど。金があれば、どんな無理な願いも妥協点まで、は」

     ノートンは窓を開け、相変わらず晴れそうにない分厚い雲を見上げた。今にも雨が降りそうで、霧も濃く立ち込め、窓の外の景色は何一つハッキリしない。

     スン、と鼻をならす。胸焼けしそうな甘い香りはいくらか薄まった。

    「困りましたねぇ」

     不意にジャックはそう言った。
     窓の外を眺めていたノートンは、「何が?」と彼を見上げる。

    「多すぎると困る……いえ、不安になるんですよね?」
    「そう、だけど」

     意味が分からず首をかしげるノートンの傍で、ジャックは腰をかがめた。冷たい指で彼の頬を撫でると、ノートンは顔を赤く染めながら視線を逸らす。
     ジャックは満足げに口元を緩め、ノートンにとびきりの悪戯を提案するように囁いた。

    「前に貴方からチョコレート頂いたでしょう?そのお返しにと、お菓子やら紅茶やらをたくさん用意したんです」
    「……」

     ノートンの黒曜が小さな熱を孕む。

    「私の部屋でお茶会を、と思っているのですが……いかがでしょう?」

     ジャックはキザったらしく言うと、腰につけていた真っ赤な薔薇をノートンへ差し出す。彼はそれを両手で受け取ると、恥ずかしそうに笑みを浮かべた。

    「喜んで」



    ***



    *Colorful Eggs_リ探
    ※探→ショタ化。おかっぱ。
    ※リ→饗宴の伯爵。


     森ではあまり見かけない色だった。
     気になって近づいてみれば、派手な模様や色、装飾がついている卵が数個、落ちている。朝食の席で見かける白い卵と違って、一回りほど小さいような気がする。

    「……なんで、たまご?」

     ノートンは周囲を見回した。

     もしかすると、この卵を産んだ鳥が近くにいるかもしれない、と思った。こんなに色とりどりの卵を産むのだから、きっと綺麗な鳥に違いない。最近、伯爵に読み聞かせてもらった騎士道物語に出てきたような、強くて不思議な力を持った鳥かもしれない。
     そう考えて、今日は朝から伯爵に会っていないことに気づいた。

     ノートンは草むらに埋まるようにして置かれていた卵を手に取った。淡い桃色と紫色を混ぜたような色の卵には、真ん中あたりに小さなクローバーの模様がついている。ノートンは他にも似たような模様の卵を拾い、左右のポケットにいくつかずつ入れた。

     家に帰ると、伯爵は部屋にこもっているようだった。最近、春になって日が高くなりつつあるから、あまり外へ出たくないらしい。

     ノートンは、先ほど拾った卵を是非とも伯爵へ見せたかったので、伯爵の部屋の扉を何度か叩いた。返事がないので、飛び上がってドアノブへぶら下がってみる。ギシ、と少し妙な音をたてながら扉は開いた。

    「はくしゃくさまー。みて! たまご、ひろった!」

     廊下で燈っていた蝋燭の火が部屋に入り、真っ暗な部屋をぼんやりと映し出した。ノートンは黒檀を塗りたくったような部屋の中を進んでいく。

     伯爵は隅の方に置いてある大きな寝台で横になっていた。

    「たまご!」
    「……ああ、ハイ。たまご」

     伯爵は、ノートンが自慢げに見せるカラフルなそれを、長い爪で傷つけないように触れた。そのまま押し付けられたので、注意深く手のひらで転がしてみる。寝ぼけ眼で見ても、なんだかけばけばしい物を渡されたな、ぐらいにしか思えない。

     ふあ、とあくびを我慢する伯爵を見て、ノートンは「たっくさん、ねてた」と呟いた。ノートンの口調が、伯爵には、どことなく非難しているように聞こえた。

    「すみません、ノートン。ベッドへ入ったら、つい眠たくなっくなってしまって……」
    「もう、ゆうがただよ。おやつ、ひとりでたべた」
    「棚に手、届きました?」

     伯爵の言葉に、ノートンはそうじゃないと顔をしかめながら寝台の上へあがってきた。少し大きくなった苺のような頬が、とても可愛らしく見える。

    「……いっしょに、たべたかった」

     拗ねたように呟き、ノートンは伯爵の腹に頭を押し付けた。伯爵は、ノートンから貰った卵を慌ててベッドサイドに置いた。伯爵は、そんな彼の頭にソッと手を置く。その柔らかな手触りに、伯爵は目じりを緩ませた。

    「明日は一緒に食べましょう。ね?」
    「どーなっつがいい。つくって」

     眉根を寄せ、頬を赤くしたノートンが呟く。

     伯爵は小さく笑い声をあげ、「了解です」と返事をする。先ほどベッドサイドに置いた派手なたまごを取り、ノートンの目の前で振って見せた。

    「折角ですから、このたまごを使ってドーナッツをつくりましょうか」
    「だめっ!」

     そう言うと、ノートンは慌てて立ち上がった。

     勢いをつけて引っ張ったブラウスにつれられ、伯爵は前のめりに倒れそうになった。ノートンを押しつぶさないように、掴んで離れない小さな手を離してやる。

    「ど、どうしたんですか。このたまご、綺麗だから取っておきたいんですか?」
    「ちがうよ。このたまご、あたためるの! あたためて、すごいとりさん、そだてるの!」
    「……鳥、生まれますかね?」

     伯爵はたまごを見ながら呟く。

     自然界にあるまじき色をしたたまごだ。よく見れば筆跡も見える。街で売ってあるたまごに色を付けたものではないのか。
     生まれないと思う。
     声には出さなかったが、伯爵はそう思った。

    「うまれないの?」

     てっきり、「すごいとり」が生まれるとばかり思っていたノートンは、分かりやすく残念そうな声を出す。

    「ん〜……、どうでしょう。……温めて、みましょうか? 割ってしまうと大変なので、毛布とかでくるんでおきましょうね」
    「ずっと、もってたらだめ?」
    「ノートン、割りますよ。それに寝相も悪いでしょう?」

     ノートンは不満げな表情で伯爵を睨んだ。
     伯爵はそんなノートンの両脇に手を入れると、ひょいと抱え上げる。「うわっ」とノートンは声を上げたが、状況を理解すると伯爵の首にしがみついた。

    「今からキッチンへ行きましょう。お湯を沸かすので、それを容器に入れて卵の周りに置くんです。そしたらノートン、ずっと心配していなくても大丈夫でしょう?」
    「でも、そのこがうまれたときに、ぼくがいなかったら? ひとりなのは、さびしいから、ぼく、ずっといっしょにいる」

     ぶらぶらと揺れながら話すノートンに、伯爵は自信の口元が上がるのを感じた。優しいノートンのために隙を見て有精卵と取り替えようかと、考えを巡らせながらノートンを椅子におろす。
     ノートンは伯爵がお湯を沸かす様子を見ながら、鳥はどのようにして育つのか夜行フクロウに聞いてみようかと考えていた。



    ***



    *いつまでも傍でと願う_リ探]
    ※探→ショタ化。
    ※リ→どちらかと言えば画家人格。



    「夕日が好きなのかい?」
    「そうだけど……この夕日、お金みたいじゃないかな」
    「すると君は、お金が好きなのか」
    「だって、お金があったら何だって出来る。そうでしょう?」
    「そう……だろうか」
    「絵描きさんは、貧乏そうだからね。きっと分からないんでしょ」

     絵描きさんは筆の頭で頬をかいた。困ったように細められた瞳の中で、溶けた蜂蜜と若草が混じりあっている。春から夏にかけての日差しのような、暖かな色だ。

    「ねえ、絵描きさん。その夕日の絵に草原を描くことって、できる?」
    「草原? 目の前の景色を丸っきり、そのまま描いて欲しいんじゃなかったっけか」
    「海より草原が好きだから、そっちが良い」

     僕の言葉を聞いて納得した表情を浮かべた絵描きさんは、「ふぅ」と小さく息を漏らした。真っすぐに夕日を見据えなおしたその瞳は、先ほどの暖かさを湛えたまま鋭さをます。

     彼の瞳は何を捉えているのだろう。
     絵描きという職業の人は、僕の周囲にはいない。雇い主は趣味で絵を描いているといっていたが、僕はその様子を見たことがない。仕事終わりに見つけた、桟橋で座り込んでいた、この絵描きさんが初めてだ。
     絵描きさんにはきっと、僕の瞳のうちとは違う景色が浮かんでいるのだろう。

    「……っ、できた」

     筆をパレットの上に置いた音がして、僕は引き寄せられるように絵描きさんのほうを見た。慌てて立ち上がり、彼の背に回ってスケッチブックを覗き込む。

    「うわぁ……っ」

     感嘆だけが口からこぼれ落ち、それっきり口を閉ざしてしまう。無意識のうちに口元を押さえた指先が震えているのが分かる。

    「何か不満な点でもあった?」

     黙った僕を訝しんだ彼が振り返った。暗い緑と目が合って、なんだかとても恥ずかしくなる。僕は「……嫌いじゃない」と、吐き出すように言った。笑いながら差し出された端の破れたスケッチブックを、僕は無言で受け取った。
     スケッチブックの切れ端を手元に寄せ、持ち直す。僕の汚れた指の腹で紙の端が黒ずんでいた。もったいない。すごく残念な気持ちになる。

    「気に入ったかい?」
    「……そこそこ」

     そう言ってスケッチブックの切れ端を弄る僕を見て、絵描きさんは泣きそうな顔で笑った。



    ***



    *あめ_傭探
    ※探→ショタ化。傭兵の家に居候?
    ※傭→保護者。



     おつかいから帰ってきたノートンは、びしょ濡れだった。
     濃く艶めいた烏羽色から止めどなく水が滴り、深緑色のシャツは泥のように変色している。

    「なっ、ど。どうしたんだ」
    「……ぬれた」

     とても不本意だ。という風に、ノートンはナワーブを見上げた。
     太い眉と小さな鼻筋の間を縫うように水滴がすべる。その拍子に、胸元で抱えていた荷物から水滴が零れ落ちていった。撥水加工がほどこされている袋の中身は、客からのお返しか駄賃替わりだろうか。よもや、傘と荷物を物々交換したわけではないだろう。

    「傘は? 出かける前に、チャント渡してやっただろ。黄色の」

     ナワーブは途切れ途切れに単語をつなぎながら、家の奥から5、6枚のバスタオルを持ってきた。それらのうちから2枚ほど取り、乱暴にノートンを包み込む。それから抱きしめるようにして体を拭いていく。

    「ちょっと! なわー、ぶ。いたい、って!」
    「我慢しろ。びしょ濡れのままで家に上がられたら、敵わん」
    「もーっ」

     それでもノートンは暴れるのをやめない。
     小さな白い腕に張り付いたシャツを破るように、水がたまった靴底を抜いてしまうように下手くそなダンスを踊る。

     ナワーブはノートンを抱きしめる腕に力をこめ、自分の方へ引き倒した。ノートンから水分を奪い取って、すっかり重たくなったタオルが床へ落ちる。

    「ほら、もう一回拭いたら風呂に行くぞ」
    「えぇっ!? い、嫌だよ。ぼく、大丈夫だって。ちょっと、濡れただけだっ……て」

     逃げようとするノートンの腕を捕まえ、新しいタオルで包んだ。

    「大人しく風呂に入れたら、明日ドーナッツ買ってやる」

     ナワーブは喉の奥で笑いながら、ノートンに囁く。びくん、と体を跳ねさせたノートンは、ほ本当に……っ。とはしゃいだ声を出しながら、大人しくなった。毛羽だったタオルの向こうで、目じりを赤く染めたノートンが頬を膨らませている。まるで、ドーナッツに釣られたわけじゃ無いんだから。とでも言いたげな様子に、ナワーブは思わずふき出した。

    「ちょっと! 笑わないでないよ!?」
    「スマン、スマン。……いっぱい、買ってやるから、な?」
    「そ、そんなに食べないよっ」
    「じゃあ1コだけか?」

     ナワーブの言葉に、ノートンは自分の体に纏わりついているタオルを引き離した。真っ白いタオルがバサバサと舞って、床の上へ落ちていく。

     両の拳を体の少し後ろへ振って、ノートンはナワーブを睨みつけながら宣言した。

    「3つは食べるからね! ぼく!」



    ***



    *地獄に近く、神に祈る_リ探]
    ※リ→肖像画としか出てこない。描写は遡及シリーズの衣装。
    ※探→パッチ。



     「本日、新しい展示品は無し。オークションが終わるまで、記録を更新する必要はない……と」

     薄暗い部屋のなか、パッチは帳面に下手くそな文字を並べていた。壁から入ってくる透き間風の所為で揺らぐ炎が、手元を大いに狂わせる。ねじれた嘴のようなペン先が、のた打ち回るミミズを描き出す。
     パッチの指先は、いつの間にか青黒いインクで染まっていた。それでも気にせず、パッチは帳面に文字をつづった。
     ピリオドを打つと、パッチはペンを机の上に置いた。

     座っていた椅子から飛び降りる。微妙に長さが違う4本の脚がガタついて、音を立てて倒れる。
     パッチは構わなかった。
     跳ねるように薄いベッドへ飛び乗り、枕の下から包みを取り出す。印字が擦れて、真っ黒になった新聞紙をかき分ければ、肖像画が見えた。

    「今晩は、『グッドボーイ』」

     薄っすらと積もった埃を吹き飛ばし、パッチは頬を緩めた。

     そっと指先で額縁をなぞる。
     肖像画には、一人の男性が描かれていた。しっとりと光るシルクハットに、細かい模様が浮かび上がったダークグリーンのジャケット。石膏のように白い肌と目元を覆う雨雲のような髪をもつ、年齢がよく掴めない姿をした人だった。

     パッチは霧の街の最下層、その外れにあるオークション会場で働いていた。
     「司会者」と名乗る男に拾われ、1日に数枚の銀貨を対価にオークションの準備を手伝っている。最初は銀貨を目当てに始めたが、上階ではお目に掛かれないような不可思議な商品を見るのも楽しみの一つになっている。

     この肖像画も不可思議な商品の一つだった。
     ある日、「司会者」がオークションへの出品物をいれた箱を持ってきた。箱の材質は様々で、大きさもバラバラだ。それらを「司会者」とパッチで開封していく。この世界に存在する数多の商品を知る「司会者」にとって、商品の選別など容易いこと。しかし、その日の流れ作業は一枚の肖像画によって滞ったのだった。

    「どうかしました?」

     一向に自分へ回ってこない商品について問えば、端正な顔をゆがめた「司会者」が振り向く。

    「いえ、ね。この、肖像画? か、何か。まったく覚えが無いんだ。どの文献でも、どこでも見た記憶がない。それにウチが扱う品にしては随分、俗っぽい」

     「ほら、血でべしゃべしゃ」と見せられた肖像画には、「司会者」の言う血はどこにも見られなかった。静かに座る、柔和な印象を受ける紳士が描かれている。
     パッチは首を傾げた。

    「どこに血があるんですか?」
    「どこにって、一面に。おかげで何が描かれているのか分かりやしないだろう?」
    「……何って。男性が描かれてますけど」

     ますます首をかしげるパッチに対し、「司会者」は一瞬だけ瞬きをする。それから肖像画をひっくり返したり、叩いたりしてからパッチへ押し付けた。

    「ふーん。へぇ、あ、そう。そういうことね」

     勝手に納得した顔で頷かれ、パッチはますます混乱する。何度も見直したが、やはり肖像画には紳士が描かれている。間違いない。

    「それ、あげる。はっきりするまで持ってて良いよ」
    「え。持ってて良いって……?」
    「そのまんまの意味。見る人によって商品の姿かたちが変わることなんて今日日珍しくないし、それなら変わってみえる人が持ってた方が何かわかるでしょ」

     頼んだよと言われ、反射的に首を縦に振った。

     長らく「司会者」に働かされてきたせいでついた悪い癖だ。彼からの仕事を断るなんて、パッチには許されない。パッチの居場所はここにしかないのだから。

     パッチはベッドの上で肖像画を抱きしめた。
     肖像画の中には相変わらず、優しく包み込むような笑みを浮かべる紳士がいる。何度「司会者」が確認しても見ることのできない存在が、自分だけに見えていることに少しの優越感を抱いた。

    「『グッドボーイ』のことが何も分からなければ良いのに」

     拗ねるように呟けば、額縁の中の彼が慰めるように笑みを深くしたようだった。

     パッチは舐めるように肖像画を見た。何度も見ているが、見るたびに印象が変わっている気がする。日によって、具合が悪そうだったり、とても嬉しそうだったりして見えた。それを「司会者」に報告すれば、「見間違いでしょ」と軽く流された。

     パッチは考える。
     『グッドボーイ』を自分のものにするために、一体いくらの金が必要だろうか。少なくとも、自分が日当たりで貰っている銀貨数百枚では足りないだろう。

    「一緒にいるのって、ずいぶんと大変なことなんだ」

     ただ絵と時を共にするだけだが多大なコストがかかる。しかし所詮は絵。何かしら自分に対して利益があるとも思えない。それなのに、どうしてここまで離れがたいと思うのか。
     「司会者」に頼めば、どうにかパッチのものにしてもらえるだろうか。……否、彼の性格を考えればありえないだろう。

     パッチは肖像画を箱の中へ直し、ベッドの上へ転がった。
     ゆっくりと両目を閉じ、ひっそりと祈りの言葉を口にした。

     オークションの目録に『グッドボーイ』の文字がのることの無いよう。


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