「もちさん。もちさんがはじめて聞いた曲って何だった?」
「ええ? えー……何だったかな……」
聞き慣れた、けれど小気味良いとも思える音が鳴り響く自室の大型テーブルを前に、モニターと睨めっこしていた剣持は唐突にそんな質問を投げかけられたことで一度視線をずらして、首をゆるやかに傾げていた。彼の視線の先にはもう何年も行動を共にしている青の双眸が、煌めきを湛えながら此方を見ている。その体躯はまるでどこにでもいる普通の青年であるはずだが、剣持は彼が人間でないことを知っていた。
高性能歌声生成アンドロイド。様々なシリーズが展開されているその中で、曲を作る剣持の元にやってきたのは「甲斐田晴」という世界で唯一のオリジナルカスタム済みアンドロイドだった。学習能力の高いAIが搭載されており、外見も普通の人間と見間違えるほど。都内で一人暮らしを送る剣持へ昔ながらの友人であり同業者でもあり、世界企業である加賀美インダストリアルの代表取締役から贈られた誕生日プレゼントだ。
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