その夢には、とある絵本が必要であると言われているらしい。本屋にはないが、古本屋にはあり、目立った場所にはないが、本棚の隅には存在している。誰かが買おうとも、数刻後には同じ場所に現れている。都市伝説ではなく、不思議な噂話でもない。何故なら、絵本の存在を知っている人間は居ないのだから。
眠る前に絵本を捲り、物語を読んだ後、眠りへつく。閉じた絵本は枕元か、枕の下へ。そうすると、ぼうと意識は眠りの水面へと沈み、気付けば読者は見ず知らずの森で目醒めるのだ。
仄明かりの月と濃紺の夜を湛えた下で、読者は白い花畑の道を辿るように歩く。鬱蒼と茂った合間のはずだというのに自然と恐怖は湧き起こらず、好奇心から歩を進めていくと、木の隙間からちらと鮮やかな輝きがこぼれ落ちた。
1235