逸話「おや、おはよう。よく眠れた?」
目を覚ました時、淡い藤色の髪の男がそばにいることに気が付いた。赤紫色の目が僕を穏やかに見つめている。
「割とはやいお目覚めかな。もっと寝てるかと思ったよ」
「お前は……」
誰だ、と聞こうとしたが声がかすれて出てこなかった。それでも僕の表情から察したのか、何かを飲みながら、ああそうだったねと笑顔を浮かべる。
「僕は四谷正宗。徳川の世が終わりゆく時代の刀、新々刀さ。僕を打った刀工、四谷正宗は江戸では結構有名だったかな。源清麿と、呼ばれることもあったけれど」
「……四谷、正宗」
「そう。君のところでは何という名前だったのかな。ここでは源清麿らしいんだけどね」
僕もよそからきた刀なんだ、と四谷正宗と名乗った刀はいう。
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