夢枕 りいん、と涼やかな音が耳に届いた。ただ寒い風が室内に入り込んできている。目を開けると板張りの天井があり、明かりもなく暗い。風はわずかに開いた障子の向こうから入り込んでいる。しっかりと閉めたはずだ、と寝ぼけながら僕は身を起こし立ち上がった。そして障子に手を掛けたところで、ふと、違和感を覚える。何だったか、何か違う気がしているのは分かるのに、何が違うのか分からない。隙間から部屋の外が見える。一つ部屋の向こうに縁側があり、そこに誰かが座っていた。
「……あ」
思わず部屋から出た。上着も羽織らずに。彼はあの子ではない。だが、どうして。混乱する頭で、一歩一歩と進むと足音に気付いた彼が振り向いた。
「……ああ、貴方ですか。良い夜ですね、秋の済んだ空気で月がよく見えますよ」
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