鬼の本丸 出雲に行く「僕が僕じゃなくなる、ってのは、今のところ想像も及ばない」
『奇遇だな。俺も生まれてこのかた、考えたことすらない』
お互い笑った。だから、個というものの救いとして教えなんてものがあるのかもしれないと則宗は何となく思う。まあ、あの朝尊が同じような質問をとっくの昔にしていたとはと少し驚いたが、あの好奇心の塊のような男士だから、真っ先に気になるところだろう。何より、成り立ちがやや自分たちに近いともなれば、余計に質問したくなるのだろう。何せ則宗自身もそうであるのだから。
バイクは市街地に入り、そこからなんてことのない、普通の駐車場に止まる。ここからどうやってあの社まで行くのか則宗は知らない。鬼は当然ながら分かっているようで、則宗にただついてこいと告げた。大通りを避けて人目に付かないような道を歩いていく。
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