夜明仄かの子XXth September 1995
我らが親愛なる明けの君、セオドア・アンブロージア・モルス様
夏も過ぎ、空に牡牛座の輝く季節となりました。
叔父上はいかがお過ごしでしょうか。
我らが新たに先祖の祝福を受けた子を授かり2年となります。
来年の春、湖水地方を望むカントリーハウスにて、3歳の誕生日の祝賀会を行うこととなりました。
ご出席いただける場合は、絵葉書で構いませんので返信をいただけると幸いです。
それではお待ちしております。
敬具
エリック・モルス
◇
「……ハァ」
「どうしたのテオ、そんなに封筒を開いたり閉じたりして」
大法典の教育機関である、アーデンの森に囲まれた魔法学校「学院」。
その教員用の研究室の一つで、物理天文学を主に担当している魔法使い、セオドア・アンブロージア・モルスは二人掛けソファにもたれかかっていた。指先では今朝方届けられた手紙を弄んでいる。それを尻目に、対面のソファでチェスの駒をいじっているのもまた、学院で教鞭を執る魔法使い、人の世の名前で遊馬柊であった。手慰みにラジオから聞こえるチェスの試合を盤面上で再現していたものの、ゲームクロックを叩く合いの手かのようなため息に質問を投げてみることにした。
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