卒業式の日、桜の木の下で【出勝】前編ヒーローコスチュームのマスクを外した途端に、凍てつく大気に鼻の奥がツンと痛んだ。日はすっかり暮れ落ちて、お腹はいつからかぐぅぐぅと煩く鳴っている。報告書は、チームアップを主導した事務所がまとめてやってくれると言っていた。つまり、この後の用事は、何も無い。たぶん、たった今「寒い!」と言って、出久からマントを強奪した、勝己にも。
「ねぇ、かっちゃん。良かったらさ、ラーメンでも食べに行かない?」
「ぁ゙あ゙?」
「いや、だって、寒いし、ね。温かいものが食べたいだろ。着替えて、寮に帰って、作るっていうのも大変だし。もうお腹ペコペコだし。この近くに、辛くて美味しいラーメン屋があるって教えてもらったし」
不機嫌に眉を寄せる勝己が、ハッキリと断ってくる前にと、出久は慌てて言葉を重ねる。教えてもらった、なんて口にしてしまったのは、失敗だったかもしれない。勝己を誘うために事前に情報を仕入れていたのが、バレてしまうかもしれない。
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