天使と悪魔「……はあ」
やっぱり高い、怖いなあ。
ここまで来ておいて足がすくんでいる自分が嫌になる。見上げる分には大して高くもない雑居ビルだったが、屋上に立ってみるとこんなにも途方もない高さに感じるとは。
生ぬるい夜風が情けない俺を嘲笑うかのようにくたびれた髪の毛をかき乱した。
『……早く飛び降りなさい』
「ッ!誰だ!」
どこからか聞こえた声に、心臓が飛び上がる。頭を振り乱して必死に辺りを見回すも、姿も気配もない。
『アァ、醜く取り乱してお可哀想に……』
「な、なんだ、なんだよッ!!どこにいるッ!」
情けなく声を荒げるも、声の主の姿を見ることはできない。姿なき声は歌うように楽しげに俺に語りかけてきた。
『探しても姿は見えないですよ、だって私は人ではない……そう、悪魔なのですからァ』
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