はじまり、この先 尾形との出会いは職場だった。
当時、主任になったばかりの月島の部署に新入社員として配属されてきたのが尾形だ。
「尾形百之助です」
と低い声で自己紹介した彼の初対面の印象は、“目が笑ってない”だった。黒くて大きな印象深い目なのに、そこに光は無く、周囲の景色も人も、何も映していないように見えた。
それは仕事に対しても同じで、物覚えは良いし何事もソツなくこなす。なのに、誰に対してもキッパリとした一線を引いていて、ここから先には誰も入るなと無言で主張していた。たまに空気が読めずに踏み込もうとした人間には、影に日向に皮肉と嫌味。しかもそれが巧みに相手を打ち負かす正論なのだから、言われた方はひとたまりもない。入社して数ヶ月経つ頃には、尾形は若手の同僚たちから遠巻きにされるようになっていた。要するに、月島のような上職から見たら、仕事“だけ”出来る問題児以外の何者でもない。
6336