新刊予定 序章
随分久しぶりの名前が左馬刻の端末へ映し出された。秋の足音が少しずつ遠のいていく、秋の暮れのことだ。
『ねえ、飲まない?』
絵文字も何もない、簡素な言葉は随分とらしくないなと、普段なら既読もつけずに放置するメッセージを開いた。画面に横たわるグレーの日付が左馬刻の指先で上に下にと動き回る。
既読数は二、返事の前に時間と店のURLが続けて現れた。日付は明日、場所は何度か訪れた覚えのある店名だった。
「カシラ、お車の準備出来ました」
事務所はどこかピリついている。先月起こった小さな諍いの後始末で若い衆はみんな駆り出され、普段事務所に詰めることのない奴らが席を埋めているせいだ。左馬刻としては男ばかりでむさ苦しいこの上ないが、これも自身の身から出た錆だと思えば文句の言いようもない。
9974