崩壊 朝の掃除が一段落した頃、無機質なノックの音がした。
ノックの音にも“個性”はあるものだと、ルゥはこの館に来てからの短い間に知った。ケイトのノックは少しせっかちで、サラのノックは遠慮がない。
これはおそらく“顔のない人形”……意志を奪われ、無個性にされた人間のもの。
ドアを開くと予想通りの黒服が、天鵞絨張りのトレーに乗せられた手紙に、ルゥの心臓は大きく跳ねた。
「ルゥ、どうしたのっ? あっ、お手紙だ!」
止める間もなく肩越しにひらりと手紙を取り上げ、ルイーズは机に向かう。
「ルイーズ、さま。それは」
赤い封蝋がされた、それ。
“おじい様とともにある棟”から届けられたその手紙の意味するところは。
サクサクと銀のペーパーナイフが紙を切り裂く音が、まるで安寧の終りを告げる合図のようだった。
409