事後寿司 迅の、誰にも打ち明けていないささやかな趣味のひとつ。
視界の端をあざやかな色が連なりつぎつぎに通り抜けていく。迅はそれらには目もくれず、目の前の嵐山を見つめていた。
嵐山はちょうど、被っていたキャップを脱いだところだった。触れればやわらかい黒髪。ひと房だけひょこんといつもと異なる跳ねかたをしている。
迅の正面に座る嵐山のふだんよりもやや重たげな瞳は、横に逸らされていた。気怠げにもみえる視線は、迅とはちがって、レーンのうえを動く色とりどりの丸いお皿に釘付けだ。お腹が空いて仕方がないのだろう。嵐山にはそういう、隠し事の苦手なわかりやすいところがある。迅の口許はしぜんと緩んだ。
そんな迅の内心には当然気づかず、嵐山は視線を横に流したまま、顔の半分を覆っていたマスクをゆっくりと外した。
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