肌と服のあいだにすべりこんでくる風に身を縮こまらせなくてもよくなってきたというのに、北部はまだ空気が噛みついて襲ってくるような寒さを保っていて、目を細める。誰にも聞かれないよう口の中で舌打ちをした。長い間暮らしてきた土地はもっと厳しい気候だったというのに、体はどうにも快適な環境への適応が早い。
賢者の魔法使い宛てにとどく依頼は、大いなる厄災の影響による異変に関するものを募っているが、はずれることもしばしばある。むしろはずれることが増えてきた気がする。大袈裟に表現すれば緊急性が高いと判断される、そんな小狡い手法が広まってしまっているらしい。
便利屋に転職した覚えはないけれど、魔力の高い生物との戦闘に比べれば、雑用とも言い換えられる仕様もない依頼の方がずっと楽でいい。いや、それだとシノの不満がたまるだろうから、適度に――十回に一回くらいの頻度で戦闘を伴う内容がちょうどいいのかもしれない。
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