重い枷を嵌める「雨彦さんの分からずや」
「そうかい。お前さんの好きにしな」
「……そう。じゃあ、好きにさせてもらうよー」
衝動のまま玄関口に掛けてあったコートを羽織り靴をひっかけ家を飛び出す。深夜にしてはかなり音を立てて扉がしまったような気がするけど、そんな事はどうでも良くなるくらい僕は今頭に血が上っていた。
雨彦さんと一緒に住むようになって、否、雨彦さんとお付き合いをするようになってから。
──僕達は今、はじめての喧嘩をしている。
僕に入っていたドラマの撮影後の打ち上げが終わるのが遅れて。盛り上がった大人に揉まれた僕は、帰りの連絡をすることもままならず気づけば時計の針はてっぺんを回っていた。ようやく解放されて確認できたスマホには、大量のLINK通知に数件の不在着信。……そもそも今日の打ち上げ自体が急遽セッティングされたものだったから、雨彦さんにそれを伝えられていたかどうかすら怪しい。慌ててタクシーを拾ってマンションに帰ったものの、リビングの扉を開けた先には顔面の表情を削ぎ落としたような冷徹な男が立ちはだかって居たのだ。
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